運営 / 更新 2026-10-13

訪問介護の報酬返還:不正請求の徴収金(100分の40の上乗せ)と過誤調整の違い

訪問介護の報酬を返す経路は2つあり、1つは、請求上の誤りを事業所が自己点検して行う過誤調整で、もう1つは、偽りその他不正の行為による請求に対して市町村が徴収金として返還を求める場合です。後者は介護保険法第22条第3項で、返還させるべき額のほかに、その額の100分の40を上乗せして徴収できると定められています。このページは、2つの経路の違いと、返還を求められる場面を、条文と厚生労働省の運営指導マニュアルで確認します。

事務机に置かれたノートパソコンと書類・手帳の写真

この記事で決めること

訪問介護事業所の経営者や管理者が、報酬の返還が過誤調整になる場合と、介護保険法第22条第3項の徴収金(返還させるべき額に100分の40を乗じた額の上乗せを含む)になる場合の違い、運営基準違反だけでは返還を求められない考え方、令和5年度の全国の処分と返還の状況を、条文と運営指導マニュアルで確認するための考え方と確認順を整理します。

読み終えたら、請求の誤りが見つかったときの対応表(誤りの内容、単なる誤りか不正の疑いかの確認事項、自己点検の範囲、過誤調整の月、根拠書類の保管場所)を作成できる状態を目指します。

返還の2つの経路:過誤調整と、徴収金としての返還

厚生労働省の運営指導マニュアルは、報酬請求の指導で不正請求ではなく単なる請求上の誤りと判断した場合は、他にも同様の誤りがないかの確認を含めて、自己点検の上、過誤調整を行うよう指導すると説明しています。過誤調整は、事業者側からの申立てによって過去の報酬請求を訂正する手続きです。事業者側に誤りがあるという認識が前提で、行政処分ではないと書かれています。

不正請求またはその疑いがある場合は、監査を行って事実を確認します。その事実が認められると、介護保険法第22条第3項に当たり、返還すべき金銭は徴収金として徴収されます。マニュアルは、介護報酬の返還を徴収金として強制できるのは、第22条第3項に当たる場合だけだと整理しています。

この区別は、返還の手続きの違いに直結します。過誤調整は事業所が申し立てて行うため、保険者への依頼の流れは訪問介護の過誤申立の流れで確認できます。徴収金は、行政が事実関係を確認した上で金銭の返還を求める行政処分で、事業所の自己点検とは別の手続きです。

過誤調整と徴収金としての返還の違い(運営指導マニュアルの整理より)
項目過誤調整徴収金としての返還(法第22条第3項)
対象になる請求不正ではない、単なる請求上の誤り偽りその他不正の行為による請求(またはその疑い)
始まり方運営指導(報酬請求指導)か監査で誤りが見つかり、自己点検と過誤調整を指導される監査で事実関係を確認し、不正が認められる
手続きの性質事業者側の申立てによる請求の訂正。行政処分ではない金銭の返還を求める行政処分(不利益処分)
強制力指導は行政指導で、強制力がない強制徴収の対象になる徴収金

不正請求と単なる誤りの線引き

マニュアルは、不正請求を、法令や基準に違反し、かつそれを偽って報酬を請求することと説明しています。例として、実際にはサービスを行っていないのに行ったように装って請求した場合、人員基準を満たすことが要件の加算を、人員が不足しているのに満たしているように装って請求した場合、実際の時間に対応する単位数を超えた単位数で請求した場合が挙げられています。

これに対して、制度の理解不足による単なる誤りの例として、ある加算の算定要件の一部を満たしていないのに請求した場合が挙げられています。同じ要件の不足でも、誤解によるものか、偽ったものかで扱いが分かれます。どちらに当たるかは、事実関係を踏まえて判断する事項で、このページが個別の事案について判断することはありません。

判断の手順として、マニュアルは、不正かどうかの判断は監査を行って事実関係を確認しなければ断定できないと書いています。監査の結果、不正ではないという判断に至ることもあり得るとされています。また、単なる誤りとして過誤調整を指導したのに従わなかったことだけを理由に、あとから不正請求と判断して返還を求めることはできないと整理されています。

介護保険法第22条第3項:返還させるべき額の100分の40を上乗せできる

第22条第3項は、市町村は、指定居宅サービス事業者などが偽りその他不正の行為により、法の定める支払(代理受領による事業者への支払)を受けたときは、その支払った額につき返還させるべき額を徴収するほか、その返還させるべき額に100分の40を乗じて得た額を徴収することができる、と定めています。訪問介護の事業者は指定居宅サービス事業者に当たります。

条文は「徴収することができる」と書いており、上乗せ分の徴収は市町村が行うことができるという形です。仮の数値の例として、返還させるべき額が100万円なら、上乗せの上限は40万円で、合計は最大140万円になります。実際にどの事案で上乗せを徴収するかの基準は、条文にもマニュアルにも書かれていないため、個別の見込みは市町村に確認する事項です。

指定の取消しなどの行政処分は、返還とは別の定めです。指定取消し・効力停止との関係は訪問介護の運営指導から監査への切替と行政処分・返還で整理しています。返還させるべき額の算定の対象期間や、不正の行為の範囲の細かな線は、条文とマニュアルのこの部分には書かれていません。

運営基準違反だけでは、報酬の返還は求められない

マニュアルは、運営基準の人員や運営に関する規定に違反があったことだけを理由に、基本報酬の返還や過誤調整を求めることはできないと整理しています。報酬に関する規定は報酬基準に定められており、返還が必要になるのは、報酬基準に違反しているからで、運営基準に違反しているからではないという考え方です。例として、運営基準に定めるサービス提供記録がないという事実だけでは、基本報酬の返還を求める根拠にならないと書かれています。

基本報酬の返還が必要になるのは、その基本単位数に基づくサービス自体が行われていない場合(架空の請求)や、基本報酬の減算規定に従わずに減算せず請求した場合などで、不正行為の事実があったときに限られると整理されています。提供記録がなくても、サービス自体が行われていなければ、架空の請求として不正請求に当たり得ます。金銭の返還を求める行為は行政処分のため、監査で事実を確認した上で行うとされています。

加算については、算定要件を誤解して要件を1つでも満たしていない場合は、その加算について自己点検の上、過誤調整を行うよう指導するとされています。加算の記録の確認は訪問介護の加算 月次自己点検チェックリストで、月ごとに行えます。

全国の状況(令和5年度)と、このサイトの整理

厚生労働省の令和5年度の集計では、監査の実施件数は1,120件で、指定取消等の行政処分は合計139件(指定取消60件、指定の効力の一部停止64件、全部停止15件)でした。サービス種別ごとの処分は、指定訪問介護事業所と指定認知症対応型共同生活介護事業所がそれぞれ21件(介護予防サービスを含む件数)で最多です。処分事由は、多い順に、不正請求、人員基準違反、虚偽報告、虚偽答弁、人格尊重義務違反となっています。

同じ集計では、指定取消等に伴って施設や事業所に返還を求めた額は、令和5年度で約3億5千万円とされています。この額には、令和4年度以前に監査を実施し、令和5年度中に確定した金額が含まれます。訪問介護だけの返還額は、この集計の本文からは分かりません。

以下は資料に書かれた内容ではなく、マニュアルの整理を踏まえたこのサイトの整理です。事業所としての備えは、自己点検で誤りを見つけたら、早めに過誤調整で訂正することです。あわせて、サービスを行った事実を示せるように、サービス提供記録、勤務表、加算の根拠資料を、算定月ごとに揃えておきます。

確認した範囲

このページが確認したのは、介護保険法第22条(e-Gov法令検索)、厚生労働省の介護保険施設等運営指導マニュアル(令和6年7月改訂)の「介護報酬の返還指導」、厚生労働省の令和5年度の指導・監査結果の集計です。上乗せ分を実際に徴収する基準、返還の対象期間、時効の扱いは、これらの資料で確認できていないため書いていません。

個別の請求が不正請求か単なる誤りかの判断や、返還額の見込み、指定権者への対応は、指定権者や市町村、弁護士などの専門家に確認する事項です。このページは判断や代理を行いません。

実行チェックリスト

次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。

  1. 請求の誤りが見つかったら、誤りの内容(加算の要件の不足、減算の漏れ、実際の時間と単位数の不一致など)を対応表に書き、いつからの請求に影響するかを明らかにする。サービス自体が行われたかを、サービス提供記録と勤務表で確かめる
  2. 同じ原因の誤りが他の利用者や他の月にないかを自己点検する。加算の算定要件を誤解していたのか、記録の不備だけなのかを分けて書き、誤りの経緯と見つけた日を残す
  3. 単なる請求上の誤りと考えられるときは、保険者へ過誤申立を依頼する月と再請求の月を決める。不正の疑いを指摘された、または事実関係に不明な点があるときは、独断で整理せず、指定権者と市町村の連絡を記録しておく
  4. 返還の見込みや上乗せの有無は、事業所で判断せず、指定権者・市町村・弁護士などの専門家に確認する事項として対応表に書く。算定月ごとにサービス提供記録、勤務表、加算の根拠資料を揃えて保管する日を決める

一次資料

個別地域の運用は指定権者で確認してください。

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