開業準備 / 更新 2026-10-14
訪問介護員の業務委託:労働者に当たるかの判断基準とフリーランス法の明示・60日払い
訪問介護員を雇用ではなく業務委託(個人事業主)で契約したいとき、契約書の名前を「業務委託」にしただけでは、労働基準法の労働者かどうかは決まりません。このページは、厚生労働省の労働者性の判断基準と、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の条文をもとに、実態で見る点と、業務委託でも必要になる書面の明示・60日以内の支払いを整理します。
この記事で決めること
訪問介護事業所の代表者が、訪問介護員を雇用ではなく業務委託(個人事業主)で契約したいとき、労働基準法上の労働者に当たるかを分ける判断基準と、業務委託でもフリーランス法で必要になる書面の明示・報酬の支払期日を、公的資料の条文で確認するための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、訪問介護員の業務委託の確認表(依頼の諾否・指示の程度・時間と場所の拘束・代替性・報酬の決め方・明示する書面)を作成できる状態を目指します。
契約の名前ではなく、実態で決まる
労働基準法第9条は、労働者を、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者と定めています。厚生労働省の労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)は、これを「指揮監督下の労働」であることと、報酬が労務の対価であることの2つで見るとし、まとめて使用従属性と呼んでいます。
報告は、雇用契約、請負契約といった形式的な契約形式にかかわらず、実質的な使用従属性を労務提供の形態や報酬の労務対償性などから総合的に判断するとしています。業務委託契約書を交わしても、実態が指揮監督下の労働であれば、労働者として扱われる可能性があります。
指揮監督下かどうかを見る4つの点
報告は指揮監督下の労働かどうかを、仕事の依頼や業務従事の指示に対する諾否の自由、業務の内容と遂行方法への指揮命令、勤務場所と勤務時間の拘束、労務提供の代替性の点から見ると整理しています。依頼を断る自由がなければ指揮監督関係を推認させる要素になり、通常の注文者が行う程度の指示にとどまるなら指揮監督を受けているとは言えない、とも書かれています。
ただし、包括的な依頼を受けた以上は個々の依頼を断りにくい場合などは、すぐに指揮監督関係を肯定せず、契約内容も勘案するとされています。
代替性は、本人に代わって他の者が労務を提供できるか、本人の判断で補助者を使えるかという点です。報告は、代替性が認められていれば指揮監督関係を否定する要素のひとつになるとしています。ただし、これは指揮監督関係の基本的な基準そのものではなく、判断を補強する要素です。
| 見る点 | 指揮監督関係を推認させる方向 | 否定する方向 |
|---|---|---|
| 仕事の依頼への諾否 | 具体的な依頼を拒否する自由がない | 依頼を断る自由がある |
| 業務の内容・やり方 | 具体的な指揮命令を受けている | 通常注文者が行う程度の指示にとどまる |
| 場所・時間の拘束 | 勤務場所・時間が指定され管理されている | 業務の性質上必要な指定にとどまる(見極めが必要) |
| 代替性 | 本人が自分で行うことが前提 | 他の者が代わって行える、補助者を使える |
報酬の決め方と、補強する要素
報酬については、時間給を基礎に計算されて結果による差が少ない、欠勤すると応分の報酬が差し引かれる、残業に別の手当が出るといった場合は、一定時間の労務提供の対価と見られて使用従属性を補強する、と報告は述べています。名目が「報酬」でも、中身が時間の対価であれば雇用に近づきます。
限界的な事例では、補強する要素もあわせて見ます。事業者性(機械・器具の負担、報酬の額が同種の従業員より著しく高額か)と、専属性(他社の仕事が制度上または事実上できないか、報酬に固定給部分があるか)です。報告は、専属性がないことをもって労働者性が弱まるわけではないとも書いています。
この報告は一般的な基準で、訪問介護の業務に当てはめた結論は書かれていません。特定の訪問介護員が労働者に当たるかは、契約の内容と働き方の事実で個別に判断されるため、このページでは判断しません。
業務委託にしてもフリーランス法で必要になること
フリーランス法第2条は、特定受託事業者を、従業員を使用しない個人、または代表者以外に役員がなく従業員も使用しない法人としています。業務委託には、事業者が事業のために他の事業者に役務の提供を委託することが含まれます。訪問介護員が個人で従業員を使わずに事業所から委託を受けるなら、この定めの対象になり得ます。
第3条は、業務委託をした場合に直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日などを書面または電磁的方法で明示することを求めています。第4条は、従業員を使用する個人や、二以上の役員または従業員がいる法人が業務委託をした場合の報酬の支払期日を、役務の提供を受けた日から60日以内で、できる限り短い期間内に定めることを求めています。
これらは労働者でない前提で業務委託にした場合の決まりです。実態が労働者と判断されれば、労働基準法や社会保険などの雇用の決まりが適用されます。
公正取引委員会規則が定める明示事項の細目、第5条以下の禁止行為、元の委託者から再委託を受けた場合の支払期日の特則(第4条第3項)は、このページでは確認していません。第3条の明示は、従業員を使わない事業者が相手の業務委託をするすべての事業者が対象で、第4条は上の特定業務委託事業者が対象です。
迷ったときの進め方
業務委託にしたい理由が、社会保険料や残業代を避けることだけなら、実態が雇用に近いほど危うくなります。上の4つの点と報酬の決め方を表にして、雇用の実態に近い項目が多いなら、雇用で契約する案と並べて比べます。
雇用で契約する場合の契約期間・勤務表・移動時間は「訪問介護の登録ヘルパーの雇用契約・勤務表・移動時間」、時給と最低賃金は「訪問介護員の時給と最低賃金」、掛け持ちの労働時間は「訪問介護員の副業・兼業(掛け持ち)の労働時間」で整理しています。
このページの範囲
このページが確認したのは、厚生労働省の労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)と、e-Govのフリーランス法の第2条・第3条・第4条です(2026-10-14に確認)。裁判例、労働者に当たると判断された場合の社会保険や労災の扱い、税務の扱いは確認していません。
個別の訪問介護員が労働者に当たるかどうかは判断しません。契約の形を決める前に、労働基準監督署か社会保険労務士に、実際の働き方を伝えて確認してください。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- 予定している契約の内容を、依頼を断れるか、やり方に細かい指示を出すか、時間と場所を決めるか、代わりの人を出せるか、の4点に分けて書く
- 報酬が時間給で計算されるか、欠勤で減るか、他の事業所の仕事ができるかを書き足し、雇用の実態に近い項目に印を付ける
- 雇用の実態に近い項目が多いときは、業務委託にせず雇用で契約する案を並べて比べる
- 業務委託で進める場合は、給付の内容・報酬の額・支払期日などを書面か電磁的方法で明示する書式と、60日以内の支払日を決める。判断に迷う点は労働基準監督署か社会保険労務士に確認する
一次資料
個別地域の運用は指定権者で確認してください。
- 厚生労働省「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)昭和60年12月19日」(確認日 2026-10-14)
- e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)第2条・第3条・第4条」(確認日 2026-10-14)