運営 / 更新 2026-10-23
訪問介護の利用者負担の未収金を貸倒損失にできる場合:法人税の3つの場面と1年以上の取引停止
利用者の自己負担分が払われないまま回収できなくなったとき、法人税では、未収金が金銭債権に当たることを前提に、一定の事実があれば貸倒損失として損金にできます。国税庁のタックスアンサー(No.5320)は、その場面を、債権が切り捨てられた場合、全額が回収できないことが明らかになった場合、継続的な取引を停止して1年以上たった場合の3つに分けています。この記事は、3つの場面と損金にする時期を整理し、訪問介護の未収金に当てはめるときに税理士や税務署へ確認する点を示します。
貸倒損失として損金にできる3つの場面
国税庁のタックスアンサーNo.5320(令和8年4月1日現在法令等)は、法人が持つ金銭債権について、貸倒損失の計上が認められる事実と、損金にする時期を3つに分けています。根拠は、法人税法第22条と法人税基本通達9-6-1から9-6-3です。
1つ目は、債権が切り捨てられた場合です。会社更生法、民事再生法、会社法などの手続で切り捨てられた金額、債権者集会の協議や行政機関・金融機関のあっせんで合理的な基準によって切り捨てられた金額、債務者の債務超過の状態が相当期間続き弁済を受けられないときに書面で明らかにした債務免除の額が、その事実が生じた事業年度の損金になります。
2つ目は、債務者の資産状況や支払能力から、全額が回収できないことが明らかになった場合です。その明らかになった事業年度に、貸倒れとして損金経理ができます。
担保物があるときは、担保物を処分した後でなければ損金経理はできません。保証債務は、現実に履行した後でなければ貸倒れの対象になりません。
3つ目は、売掛債権について、一定期間の取引停止後に弁済がない場合などです。売掛債権の額から備忘価額(帳簿に残す名目上の価額)を引いた残りを、貸倒れとして損金経理できます。貸付金などは含みません。
| 場面 | 主な事実 | 損金にする時期・処理 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 債権が切り捨てられた場合 | 法定の更生・再生手続での切捨て、合理的な基準での協議による切捨て、債務超過が相当期間続いたときの書面による債務免除 | その事実が生じた事業年度の損金 | 書面で明らかにした債務免除は、債務者の債務超過の状態が相当期間続き、弁済を受けられない場合に限られる |
| 全額が回収不能と明らかになった場合 | 債務者の資産状況、支払能力などから全額が回収できないことが明らか | 明らかになった事業年度に貸倒れとして損金経理 | 担保物があれば処分後。保証債務は履行後 |
| 取引停止後1年以上たった場合など | 継続的な取引の債務者との取引を停止し、取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上たった。または、同一地域の債務者への売掛債権の総額が取立費用より少なく、督促しても弁済がない | 売掛債権の額から備忘価額を引いた残額を損金経理 | 売掛債権が対象で貸付金は含まない。担保物のある場合は1年以上の取扱いから除かれる。不動産取引のようにたまたま行った取引の売掛債権は対象外 |
この記事で決めること
訪問介護を法人で運営する経営者・管理者が、利用者から回収できない自己負担分の未収金を、決算で法人税上の貸倒損失として損金にできる場面と時期を、国税庁の案内で確認するための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、未収金の貸倒れ判定メモ(利用者別の未収額・請求月・サービス停止日・最後の入金日・書面の有無・決算期ごとの判定結果)を作成できる状態を目指します。
訪問介護の利用者負担分に当てはめるときの前提
訪問介護の利用者負担分は、サービスを提供した後に請求する継続的な取引から生じる代金です。このため、3つ目の「継続的な取引を行っていた債務者に対する売掛債権」の考え方に当てはまるかが、まず気になる点です。
ただし、国税庁の案内に、介護保険の利用者負担分がこの意味の売掛債権に当たるという記述はありません。この記事は、当たるという前提で整理しており、実際の取扱いは税理士か税務署に確認してください。
取引停止と1年の数え方は、案内の文言に沿って、取引を止めた時と最後に弁済を受けた時などのうち、最も遅い日から数えます。たとえば、利用者へのサービスを止めた日と、最後の入金日が別の日なら、遅いほうが起点です。サービスを止めた後に入金があれば、最後の弁済の時が遅い日になる場合があるため、入金日の記録が重要です。
2つ目の全額回収不能は、案内では1年の経過が条件に書かれていない場面ですが、「明らかになった」と言えるだけの事実が要ります。利用者の資産状況や支払能力をどう確かめたかの記録が、事実を示す材料になります。どの程度の事実があれば足りるかは、個別の事案によるため、税理士に確認します。
書面で債務免除を行う場面は、債務者の債務超過が相当期間続き、弁済を受けられないときの扱いです。介護保険の利用者負担を事業所の判断で減らすことの可否は、この記事では判断しません。
市町村が認める減額・免除の制度は別にあり、介護保険の利用者負担の減額・免除(法第50条)で扱っています。事業所が書面で免除する前に、市町村や指定権者へ確認してください。
貸倒れの判断の前に、残しておく記録
貸倒れの判断は、事実が揃っているかで決まるため、決算の前に、利用者ごとの記録を揃えておくと判断しやすくなります。次の項目は、国税庁の案内が挙げる事実に対応させた、編集上の整理です(運用の提案で、様式が定められているわけではありません)。
| 項目 | 書くこと | どの場面の判断に使うか |
|---|---|---|
| 未収の内訳 | 利用者、請求月、請求額、入金額、未収額 | 3つの場面すべて |
| サービスを止めた日と最後の入金日 | どちらも日付で。遅いほうに印 | 取引停止後1年以上 |
| 督促と連絡の経過 | 連絡日、方法、相手、回答 | 全額回収不能、少額債権で督促しても弁済がない場合 |
| 資産状況・支払能力について確かめたこと | 確認した相手、日付、内容 | 全額回収不能 |
| 担保物・保証人の有無 | 有無と、処分や履行の状況 | 全額回収不能、取引停止後1年以上 |
| 書面の有無 | 債務免除などの書面の日付と内容 | 債権が切り捨てられた場合 |
貸倒れにしたあとと、この記事で決めないこと
貸倒れにする場面や時期、帳簿での処理(損金経理の方法)は、事業年度ごとの決算と申告に関わります。どの未収金をどの事業年度で貸倒れにするかは、事実の積み上げで決まるため、顧問の税理士に判定メモを見せて確認するのが確実です。
この記事は、未収金が出たときの督促の手順やサービス継続の判断を扱いません。それらは訪問介護の利用者負担分の未収金:提供拒否・ケアマネ連絡・記録の確認で読めます。個人事業として運営している場合の所得税の取扱いも、この記事の対象外で、国税庁の案内は法人税の取扱いです。
次に読む記事
未収金が出たときの提供拒否の考え方と記録は、訪問介護の利用者負担分の未収金:提供拒否・ケアマネ連絡・記録の確認で読めます。
利用者の負担を市町村が減額・免除する制度は、介護保険の利用者負担の減額・免除(法第50条)で読めます。
法人で運営するときの法人税の申告は、訪問介護を法人で開業したときの法人税:税率15%・23.2%と申告・納付・中間申告の期限で読めます。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- 利用者ごとに、未収額、請求月、サービスを止めた日、最後の入金日、督促と連絡の経過を一覧にし、担保物の有無も書く
- 一覧の各行を、債権の切捨て、全額回収不能、取引停止後1年以上の3つの場面に照らし、当てはまりそうな場面と足りない事実を書き出す
- 当てはまりそうな行は、利用者負担分を売掛債権として扱ってよいか、書面での債務免除をどう取り扱うかを、顧問の税理士か税務署に確認して回答を記録する
- 決算の前に、損金にする事業年度と帳簿の処理(損金経理)を税理士と決め、貸倒れにしなかった行は、次の決算で再判定する日付を書く
一次資料
個別地域の運用は指定権者で確認してください。
- 国税庁「タックスアンサー No.5320 貸倒損失として処理できる場合(令和8年4月1日現在法令等)」(金銭債権が切り捨てられた場合、金銭債権の全額が回収不能となった場合、一定期間取引停止後弁済がない場合等、根拠法令等)(確認日 2026-10-23)