運営 / 更新 2026-10-17

訪問介護の担当ヘルパーの希望(同性介助・指名・交代)への対応と断れる線

利用者や家族から「女性のヘルパーに来てほしい」「あの人はもう替えてほしい」と言われたとき、事業所はどこまで応じる必要があり、どこから断れるのか。この記事は、指定居宅サービス等の運営基準(平成11年厚生省令第37号)と老企第25号の解釈通知で、基準が定めている範囲(提供拒否・困難時の対応・勤務体制・苦情処理)と、基準に定めがなく事業所の方針で決める範囲を分けて整理します。

事務机に置かれたノートパソコンと書類・手帳の写真

基準が決めていること:担当者の希望そのものの規定は見当たらない

運営基準の本則275条を「指名」で検索しても、該当する条はありません(e-Gov法令検索、2026-10-17に確認)。担当する訪問介護員を利用者が選べるか、性別の希望に応じる義務があるかを直接定めた条文は、この記事で確認した範囲にはないということです。

基準が定めているのは、希望を受けたときの事業所の動きを左右する4つの条です。第9条は正当な理由のない提供拒否の禁止、第10条は提供が困難なときの居宅介護支援事業者への連絡と他事業者の紹介、第30条は事業所ごとの勤務体制の確保、第36条は苦情の受付窓口と記録です。第3条第1項は、事業者に利用者の意思及び人格を尊重して、常に利用者の立場に立ったサービスの提供に努めるよう求めています。

このため、希望をどう受けるかは、基準の範囲内で事業所が方針を決める事項になります。方針は契約前の重要事項説明で利用者に示しておくと、後の行き違いを減らせます(運用の提案)。

この記事で決めること

訪問介護事業所の管理者やサービス提供責任者が、利用者や家族から担当する訪問介護員の性別の希望や交代の求めを受けたとき、運営基準でどこまで応じる必要があり、どこから断れるかを確認するための考え方と確認順を整理します。

読み終えたら、担当者の希望への対応メモ(受けた希望・検討結果・利用者への回答・居宅介護支援事業者への連絡)を作成できる状態を目指します。

断ってよい線:第9条の正当な理由は3つの場合

第9条は、指定訪問介護事業者が正当な理由なく指定訪問介護の提供を拒むことを禁じています。老企第25号は、特に要介護度や所得の多寡を理由にした拒否を禁止するものと説明し、提供を拒める正当な理由として、事業所の現員からは利用申込に応じきれない場合、利用申込者の居住地が通常の事業の実施地域外である場合、そのほか自ら適切な訪問介護を提供することが困難な場合の3つを挙げています。

担当者の希望に応じられないことと、サービスの提供を拒むことは別の話です。たとえば「男性の訪問介護員は避けたい」という希望に、事業所の勤務体制では応じきれないとき、まず検討するのは担当者の調整や代替案であり、利用そのものを断ることではありません(筆者の整理)。希望が通らないことを理由に利用自体を断る場合は、上の3つのどれに当たるかを管理者が確かめます。

断ると判断したときは、第10条により、居宅介護支援事業者への連絡、適当な他の指定訪問介護事業者の紹介など必要な措置を速やかにとります。老企第25号も、第9条の正当な理由で自ら適切な訪問介護を提供することが困難と認めたときの措置として、同じ内容を示しています。

希望を受けたときの動き:記録から回答まで

担当は、事業所が定めた勤務体制の中で決まります。第30条第1項は事業所ごとの訪問介護員等の勤務体制を定めること、第2項は事業所の訪問介護員等によって訪問介護を提供することを求めています。利用者の希望は勤務体制の調整で受けられるかを見るもので、体制を超えて個別に約束するものとは限りません(運用の提案)。

実務では、次の順で進めると、口頭の約束による行き違いを防げます。各行の根拠のうち「運用の提案」は、条文に書かれた手順ではなく、条文に沿った進め方の一例です。

担当者の希望を受けたときの事業所の動き
場面事業所の動き根拠
契約前訪問介護員等の勤務体制を重要事項説明書で説明し、同意を得る。担当の決め方も併せて示す基準第8条・老企第25号(勤務体制の説明)。担当の決め方は運用の提案
希望を聞いたとき誰から、どの訪問・どの担当について、何を求められたかを日付つきで記録し、サービス提供責任者と管理者へ伝える運用の提案(苦情に当たる場合は基準第36条第2項の記録)
応じられるとき勤務体制の中で担当を調整し、居宅介護支援事業者へ変更を連絡する運用の提案
応じられないとき理由と、代わりに出せる案(担当の組み合わせ、時間帯の変更など)を利用者と家族へ説明する運用の提案
利用自体を断るとき第9条の正当な理由に当たるかを管理者が確かめ、居宅介護支援事業者へ連絡して他事業者を紹介する基準第9条・第10条・老企第25号

苦情と職員の保護:希望の裏にある不満と、職員へのハラスメント

「替えてほしい」の背景に、提供内容への不満があることは少なくありません。提供した訪問介護に対する利用者や家族の苦情は、第36条により、窓口を設けて迅速かつ適切に対応し、内容を記録します。

市町村や国民健康保険団体連合会が調査や指導・助言を行ったときは、協力し、必要な改善をします。詳しくは訪問介護の苦情処理(基準第36条):窓口・記録・市町村と国保連の調査協力と改善報告で整理しています。

逆に、特定の訪問介護員に対する利用者側の言動が就業環境を害している場合は、担当の交代が職員を守る手段になることがあります。第30条第4項は、職場における性的な言動や、優越的な関係を背景とした業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動で訪問介護員等の就業環境が害されることを防ぐため、方針の明確化など必要な措置を事業者に求めています。利用者や家族からの著しい迷惑行為への対応は、カスタマーハラスメント防止措置の義務化(令和8年10月施行):訪問介護の事業者の4措置を読んでください。

起こりやすい失敗:口頭だけの承諾、連絡漏れ、理由の記録なし

担当を替えた理由が記録に残っていないと、後で「なぜ替わったのか」と問われたときに説明できません。希望の内容、検討した結果、利用者へ伝えた内容は、日付と担当者名を付けて記録します(運用の提案)。

利用者へ約束した担当を、居宅介護支援事業者へ伝えないまま変更すると、ケアプランの実際の提供と食い違うおそれがあります。担当の変更が長く続くときは、居宅介護支援事業者と共有しておくと安全です(運用の提案)。

なお、この記事は運営基準と老企第25号の本文を整理したもので、個別の事案で提供拒否に当たるか、苦情や虐待に当たるかを判断するものではありません。判断に迷うときは、指定権者である都道府県・市町村の窓口へ確認してください。

次に読む記事

利用自体を断るときの手順は、訪問介護の提供拒否禁止と提供困難時の紹介・連絡で読めます。

苦情を受けたときの窓口と記録は、訪問介護の苦情処理(基準第36条):窓口・記録・市町村と国保連の調査協力と改善報告で読めます。

利用者側の言動から職員を守る措置は、カスタマーハラスメント防止措置の義務化(令和8年10月施行):訪問介護の事業者の4措置で読めます。

実行チェックリスト

次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。

  1. 契約前に、担当の決め方と勤務体制を重要事項説明書で説明し、担当者の希望を受けたときの事業所の方針を伝える
  2. 希望を受けたら、誰から、どの訪問・担当について、何を求められたかを日付つきで記録し、サービス提供責任者と管理者へ伝える
  3. 勤務体制の中で応じられるかを確かめ、応じられる場合は担当を調整して居宅介護支援事業者へ連絡し、応じられない場合は理由と代わりに出せる案を利用者と家族へ説明する
  4. 利用自体を断る場合は、第9条の正当な理由に当たるかを管理者が確かめ、第10条に沿って居宅介護支援事業者へ連絡し、他の事業者を紹介する

一次資料

個別地域の運用は指定権者で確認してください。

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