運営 / 更新 2026-10-07
カスタマーハラスメント防止措置の義務化(令和8年10月施行):訪問介護の事業者の4措置
令和7年法律第63号による労働施策総合推進法の改正で、カスタマーハラスメントの防止措置が事業主の義務となり、令和8年10月1日に施行されました。厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は、顧客等に「施設・サービスの利用者及びその家族」を含めています。訪問介護の事業者にとっては、利用者や家族からの言動に対し、職員を守るための措置を整える義務になります。
この記事で決めること
令和8年10月1日から事業主の義務となったカスタマーハラスメント防止措置について、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)が定める定義、利用者・家族が顧客等に含まれること、事業者が講ずる措置の範囲を、訪問介護の事業者向けに確認するための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、カスタマーハラスメント防止措置の整備状況の確認表を作成できる状態を目指します。
何が義務になったか(施行日と根拠)
厚生労働省の「職場におけるハラスメントの防止のために」のページによると、令和7年6月11日に令和7年法律第63号が公布され、カスタマーハラスメントの防止措置が事業主の義務となります(令和8年10月1日施行)。令和8年2月26日にはカスタマーハラスメント防止指針が公布されました。事業主が講ずべき措置の内容は、この指針(令和8年厚生労働省告示第51号)に書かれています。
この記事は指針の本文を読んで確認できた範囲の整理です。運営基準第30条第4項が求める職場のハラスメント防止は訪問介護の勤務体制の確保等(基準第30条)にまとめており、この記事はそれとは別に、利用者・家族など顧客等の言動に起因する問題を扱います。個別の言動が違法かどうか、カスタマーハラスメントに当たるかどうか、行為者への懲戒やサービス提供の中止ができるかどうかは判断しません。
カスタマーハラスメントの定義と、利用者・家族が含まれること
指針は、職場におけるカスタマーハラスメントを、次の3つの要素をすべて満たすものと定義しています。職場で行われる顧客等の言動であること、業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えていること、労働者の就業環境が害されることです。顧客等からの苦情のすべてが該当するわけではなく、客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは、正当な申入れでありカスタマーハラスメントには当たらないと明記されています。
「顧客等」には、サービスの利用をする者のほか、施設・サービスの利用者及びその家族が例として挙げられています。「職場」は、労働者が通常就業している場所以外でも、業務を遂行する場所であれば含まれ、顧客の自宅も例に挙がっています。訪問介護員が利用者の自宅で受ける言動も、この範囲で考えます。
電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれます。
社会通念上許容される範囲を超えた言動の例として、指針は、要求の内容によるもの(性的な要求やプライバシーに関わる要求、契約等で想定しているサービスを著しく超える要求など)と、手段や態様によるもの(身体的な攻撃、脅迫・中傷・侮辱・暴言などの精神的な攻撃、威圧的な言動、継続的・執拗な言動、長時間の居座りや電話での拘束など)を挙げています。これらは限定列挙ではなく、個別の事案の状況で判断が異なる場合もあるとされています。
判断にあたっては、言動の目的、経緯や状況、業種・業態、業務の内容、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況などを総合的に考慮するとされ、事業主や労働者の側の不適切な対応が原因や背景になっている場合にも留意するとされています。
事業者が講じなければならない措置
指針の4は、事業主が雇用管理上講じなければならない措置を、次の4つの柱で示しています。いずれも「講じなければならない」措置で、事業所の規模による区別は本文では確認できませんでした。
一つ目は、方針の明確化と周知・啓発です。カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確にし、管理監督者を含む労働者に周知します。あわせて、カスタマーハラスメントの内容と、あらかじめ定めた対処の内容も周知します。
対処の内容の例として、職員が管理監督者等へ直ちに報告して指示を仰ぐこと、可能な限り一人で対応させず必要に応じて管理監督者等が代わること、顧客等とのやり取りの録音・録画(個人情報保護法等を守ること)、暴行・傷害・脅迫などに当たり得る言動の警察への通報、現場対応が困難な場合の本社等への情報共有、法的な手続が必要な場合の弁護士への相談が挙げられています。これらも限定列挙ではなく、各事業主が実態に応じて定めるとされています。
二つ目は、相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するための体制の整備です。三つ目は、相談があった場合の事実関係の迅速かつ正確な確認と適正な対処です。事実が確認できたときは、被害を受けた労働者への配慮として、管理監督者等が代わって対応すること、行為者との引き離し、担当者の変更や複数人での対応、メンタルヘルス不調への相談対応などの措置が例に挙がり、暴行・傷害・脅迫などの犯罪に当たり得る言動は警察へ通報するとされています。
確認が難しい場合は、中立な第三者機関に委ねることも例に挙がっています。再発防止として、方針の改めての周知・啓発や、原因となった接客等の問題や顧客等とのコミュニケーション不足の改善を図ります。事実が確認できなかった場合にも、同様の再発防止の措置を講ずるとされています。
四つ目は、相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じることと、相談したことや事実確認に協力したことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発することです。
| 措置 | 指針に書かれている内容(要旨) |
|---|---|
| 方針の明確化と周知・啓発 | 毅然とした態度で対応し労働者を保護する旨の方針と、カスタマーハラスメントの内容、対処の内容を、管理監督者を含む労働者に周知する |
| 相談体制の整備 | 労働者からの相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するための体制を整える |
| 事実確認と事後の対応 | 事実関係を迅速かつ正確に確認し、確認できたときは被害者への配慮の措置と再発防止の措置を講ずる。確認できなかったときも再発防止の措置を講ずる |
| プライバシーと不利益取扱い | 相談者等のプライバシーを保護し、相談したこと等を理由とする不利益な取扱いをしない旨を定めて周知する |
介護の現場で留意すること(指針の書きぶり)
指針は、措置を講じるときに、各業法等によりサービス提供の義務等が定められている場合や、サービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合等があることに留意して適切に対応する必要があると書いています。また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律に基づき、障害者が不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体は、カスタマーハラスメントには当たらないとされています。顧客等との建設的対話を重ねるなど、事案に応じて適切に対応するとされています。
このため、利用者の認知症の症状や障害特性による言動をどう扱うかは、一律には決められません。厚生労働省のページには、消費者の心理や障害特性、認知症の症状に係る啓発資料の案内があり、顧客等への理解を深めるための研修等に使える資料として紹介されています。指針では、こうした理解を深める取組、顧客等への対応力を高める研修は、義務の措置に加えて行うことが望ましい取組に位置づけられています。
原因や背景に、サービスや接客等の問題、顧客等とのコミュニケーション不足があると考えられることも、指針は繰り返し述べています。苦情の受付と記録は訪問介護の苦情処理(基準第36条)、事故や苦情が起きたときの初動は苦情・事故と単独訪問リスクへの備えで確認できます。
事業所で確認する順番と確認先
まず、指針の4つの措置について、事業所の方針の文書、対処の内容(報告先、一人で対応させない運用、警察への通報の基準)、相談の窓口と担当、事実確認と再発防止の手順、プライバシーの保護と不利益取扱いをしない旨の周知が揃っているかを一覧にして点検します。就業規則や研修の計画の改定が必要かは事業所の状況で変わるため、都道府県労働局など公的な窓口に確認してください。
この記事は、厚生労働省の指針と公式ページで確認できた範囲の整理であり、個別の事案が義務の対象かどうか、対応が適切だったかどうかを判断するものではありません。介護現場向けの手引きや業種別のマニュアルは、この記事では本文を確認していないため扱っていません。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- 毅然とした態度で対応し職員を保護する方針を文書にし、管理者を含む全職員に周知する(顧客等には利用者とその家族が含まれる)
- 直ちに管理者へ報告する、可能な限り一人で対応させない、必要に応じて録音・録画、犯罪に当たり得る言動は警察へ通報する、といった対処の内容をあらかじめ定めて周知する
- 職員からの相談(苦情を含む)を受ける窓口と担当を決め、相談したことを理由に不利益な取扱いをしない旨と、相談者のプライバシーを守る手順を職員へ周知する
- 相談があったときの事実確認、被害を受けた職員への配慮、再発防止の手順を決め、事案の記録の残し方を決める。利用者への対応は障害特性や認知症の症状への理解、サービス提供義務にも留意する
一次資料
制度の確認に使用した公的一次資料です。個別地域の運用は指定権者で確認してください。