運営 / 更新 2026-10-03

訪問介護員が高齢者虐待を発見したときの通報義務:市町村への通報・重大な危険がある場合の義務・通報者の保護

訪問介護の従事者が、同じ事業所の従事者による虐待を受けたと思われる高齢者を発見したときは、速やかに市町村へ通報する義務があります(高齢者虐待防止法第21条第1項)。この記事は、通報が義務になる場合と努力義務にとどまる場合の分かれ方、通報した人が不利益を受けないこと、事業所が整える防止の措置を、e-Govの現行条文から整理します。個別の事案が虐待に当たるかの判断は扱いません。

この記事で決めること

訪問介護事業所の従事者が、高齢者虐待防止法に基づいて、同じ事業所の従事者による虐待を受けたと思われる高齢者を発見したときにどこへ通報するのか、通報が義務になる場合と努力義務の場合はどう分かれるのか、通報したことで不利益を受けないのかを、条文から確認するための考え方と確認順を整理します。

読み終えたら、虐待を発見したときの通報手順の確認表を作成できる状態を目指します。

訪問介護は法律上の「養介護事業」に当たる

高齢者虐待防止法は、介護保険法の居宅サービス事業などを「養介護事業」と呼び、その業務に従事する人が、サービスを受ける高齢者に対して行う虐待を「養介護施設従事者等による高齢者虐待」と定めています(第2条第5項第2号)。介護保険法は訪問介護を居宅サービスの一つに挙げているため、訪問介護事業所で働く人は、この規定の対象に入ります。

法律が挙げる虐待の行為は5つです。身体に外傷が生じるおそれのある暴行、著しい減食や長時間の放置など養護を著しく怠ること、著しい暴言や拒絶的な対応、わいせつな行為、財産の不当な処分で、いずれも65歳以上の高齢者が対象です。ここでの「養護者」は家族など、事業所の従事者以外で高齢者を現に養護する人を指し、家族による虐待は別の条文(第7条)で扱われます。

高齢者虐待防止法が定める虐待の5つの行為(第2条第5項)
行為条文の要旨
身体的な暴行身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行を加えること
養護の著しい怠り著しい減食や長時間の放置など、高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること
心理的な虐待著しい暴言や著しく拒絶的な対応など、著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
性的な行為わいせつな行為をすること、またはさせること
財産上の虐待高齢者の財産を不当に処分するなど、不当に財産上の利益を得ること

通報が義務になる場合と努力義務の場合(第21条第1項〜第3項)

第21条第1項は、従事者が、自分が働いている事業所(同じ法人が運営する他の事業所を含みます)で働く人による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに市町村へ通報しなければならないと定めています。この場合は、高齢者の状態の重さに関係なく通報が義務です。

第2項は、第1項に当たらない人(たとえば他の事業所の従事者や家族)が、虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合の定めで、生命または身体に重大な危険が生じているときは速やかに通報しなければならないとしています。第3項は、それ以外のときは速やかに通報するよう努めなければならないとして、努力義務にとどめています。

第21条の通報義務の分かれ方
項対象となる人義務の程度
第1項虐待をした人と同じ事業(同じ設置者・運営者の事業を含む)で働く従事者速やかに市町村へ通報しなければならない
第2項第1項以外で、虐待を受けたと思われる高齢者を発見した人(生命・身体に重大な危険がある場合)速やかに市町村へ通報しなければならない
第3項第1項・第2項以外で、虐待を受けたと思われる高齢者を発見した人速やかに市町村へ通報するよう努めなければならない

通報した人は守られる(第21条第6項・第7項)

第6項は、刑法の秘密漏示罪など守秘義務に関する法律の規定が、通報をすることを妨げるものと解釈してはならないと定めています。利用者の情報を扱う仕事でも、通報は守秘義務違反にならないという趣旨です。ただし条文は、虚偽の通報と過失による通報をこの保護から除いています。

第7項は、養介護施設従事者等が通報をしたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いを受けないと定めています。事業所側は、通報した従事者を不利に扱ってはならないことになります。また第4項で、虐待を受けた高齢者本人も、その旨を市町村に届け出ることができます。

事業所が整える防止の措置(第20条・第5条)

第20条は、養介護事業を行う者が、従事者の研修の実施と、利用者とその家族からの苦情を処理する体制の整備などの措置を講ずるものとすると定めています。第5条は、従事者が高齢者虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、早期発見に努めなければならないとしています。

委員会の開催や指針の整備、研修の実施といった運営基準が求める具体的な措置と、整えていない場合の減算は、訪問介護の虐待防止・業務継続計画未策定減算の基準で確認できます。利用者からの苦情と事故への対応の流れは苦情・事故と単独訪問リスクへの備えにまとめています。

通報後の流れと事業所での運用例・確認先

通報を受けた市町村は、第22条で、通報や届出の内容を事業所の所在地の都道府県へ報告することが定められています。指定都市と中核市は、厚生労働省令で定める場合を除き、この規定が適用されません。都道府県知事は、毎年度、養介護施設従事者等による高齢者虐待の状況などを公表します(第25条)。

運用の例としては、市町村の通報窓口の連絡先を従事者が見られる場所に置く、発見したときに誰がどの経路で通報するかを決めておく、通報した人を不利に扱わないことを研修で伝える、発見の日時と状況、通報した日と相手を記録に残す、といった方法があります。

この記事は、e-Govの現行条文で確認できた範囲の整理です。個別の事案が虐待に当たるか、市町村ごとの通報窓口と通報の方法、通報しなかった場合の扱いは、事実関係や自治体の運用で異なるため、市町村に確認してください。確認先の一覧は指定権者に確認する事項の一覧にあります。

実行チェックリスト

次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。

  1. 事業所の所在地の市町村で、虐待の通報・届出を受け付ける部局と連絡先を確認し、訪問介護員が見られる場所に掲示または配布する
  2. 虐待を受けたと思われる高齢者を発見したときは、速やかに市町村へ通報することを、従事者全員へ周知し、誰がどの経路で通報するかを決めておく
  3. 通報した従事者が解雇その他の不利益な取扱いを受けないことを、就業規則や研修の資料に書いて周知する
  4. 発見した日時・場所・状況・通報した日と相手・市町村の回答を記録として残し、虐待防止の委員会での検討と運営指導の準備にもつなげる

一次資料

制度の確認に使用した公的一次資料です。個別地域の運用は指定権者で確認してください。

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