運営 / 更新 2026-10-16
避難行動要支援者名簿と個別避難計画:訪問介護事業所が確認する範囲と個人情報の扱い
避難行動要支援者名簿と個別避難計画は、災害対策基本法が市町村長に作らせる、支援が必要な人の名簿と、その人ごとの避難の計画です。条文を確認すると、作成するのは市町村長で、訪問介護事業所に作成や避難支援を義務づける定めは見つかりませんでした。この記事は、仕組みと個人情報の扱いを条文で整理し、事業所が市町村に確認する点を分けます。
この記事で決めること
訪問介護の事業者が、避難行動要支援者名簿と個別避難計画の仕組みと、事業所が関わるときの確認先と個人情報の扱いを知るための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、避難支援に関する確認表(市町村への確認事項、利用者ごとの名簿・計画の登録状況、情報の取扱いルール)を作成できる状態を目指します。
避難行動要支援者名簿:作るのは市町村長
災害対策基本法の第49条の10は、市町村長に、災害のときに自分で避難することが難しく、避難のために特に支援が必要な人(避難行動要支援者)の把握に努め、その名簿を作ることを求めています。名簿は、避難の支援や安否の確認などを行うための基礎になるものです。
名簿に載せる事項は、氏名、生年月日、性別、住所または居所、電話番号などの連絡先、避難支援を必要とする事由のほか、市町村長が必要と認める事項です。作成の主体は市町村長であり、介護事業所が名簿を作る定めではありません。
名簿の情報が事業所に渡るとき:本人の同意が原則
第49条の11第2項は、災害に備えて、市町村の地域防災計画の定めにより、消防機関、警察、民生委員、市町村の社会福祉協議会、自主防災組織その他の避難支援に携わる関係者へ、名簿の情報を提供するものとしています。ただし、市町村の条例に特別の定めがある場合を除き、本人の同意が得られない場合は提供しません。
災害が発生した、または発生するおそれがある場合に、生命や身体を守るために特に必要があると市町村長が認めるときは、本人の同意なしに情報を提供できます(同条第3項)。条文は提供先の例を並べていますが、訪問介護事業所を名指しした定めは、確認した条文には出てきません。事業所が提供先になるかどうかは、市町村の地域防災計画や運用で決まるため、市町村に確認します。
情報を渡すときは、市町村長が、受け取る側に漏えいを防ぐ措置を求めるなど、本人や第三者の権利を守る配慮をするよう努めることになっています(第49条の12)。
個別避難計画:作成は努力義務で、本人の同意が前提
第49条の14は、市町村長が、名簿に載る人ごとに、避難支援を実施するための計画(個別避難計画)を作るよう努めなければならないと定めています。本人の同意が得られない場合は、作成しなくてよいことになっています。作成が義務ではなく努力義務である点と、同意が前提である点が、実務で誤解されやすい部分です。
計画には、名簿の項目に加えて、避難支援を実施する人の氏名や連絡先、避難する場所と経路などを書きます。避難支援を実施する人は、地域の関係者の中から計画ごとに決まるもので、事業所が当然に担うものとは、条文のどこにも書かれていません。
| 項目 | 避難行動要支援者名簿 | 個別避難計画 |
|---|---|---|
| 作成の主体 | 市町村長(作成しなければならない) | 市町村長(作成するよう努めなければならない) |
| 本人の同意 | 作成には不要。平常時の関係者への提供は、原則として本人の同意が必要 | 同意が得られない場合は作成しなくてよい。平常時の提供は、本人と避難支援を実施する人の同意が原則 |
| 災害時の提供 | 特に必要があると認めるとき、同意なしで提供できる | 同じく、同意なしで提供できる |
| 主な記載事項 | 氏名、生年月日、性別、住所、連絡先、避難支援を必要とする事由 | 名簿の事項に加え、避難支援を実施する人、避難場所と避難経路 |
個人情報の扱い:受け取った人に秘密保持義務がある
第49条の17は、個別避難計画の情報の提供を受けた人と、その情報を使って避難支援に携わる人(法人の場合はその役員や職員を含む)に、正当な理由なく、知り得た秘密を漏らしてはならないという義務を課しています。その仕事を離れた後も同じです。
事業所が名簿や計画の情報を受け取る場合は、閲覧できる職員、保管の場所、持ち出しの可否、退職した職員への扱いを、事前に決めておく必要があります。訪問介護の運営基準にも利用者の秘密を守る定めがあり、訪問介護の秘密保持等(基準第33条):守秘義務と個人情報の同意で整理しています。
事業所が市町村と利用者に確認する順番
ここからは、条文を参考にした運用の例です。まず、事業所所在地と利用者が住む市町村の防災または福祉の担当課に、名簿と個別避難計画の運用、事業所が情報の提供先になるか、提供を受けるときの条件を確かめます。市町村ごとに様式や提供先が異なるため、全国一律の答えはありません。
利用者については、名簿への登録の有無と計画の作成状況を、本人・家族または担当のケアマネジャー(居宅介護支援事業者)に確認します。事業所が、利用者が要支援者に当たるかどうかを判断することはしません。登録されていない場合も、事業所が代わりに登録を進めるのではなく、本人や家族に、市町村の窓口があることを伝える形にとどめます。
災害時の連絡や代替の対応は、事業所の業務継続計画に書く内容です。訪問介護の業務継続計画(BCP)に書く項目と厚労省ひな形と、悪天候・災害で訪問できない日の訪問介護の対応:利用者への連絡・代替・算定の確認先で確認できます。
この記事で確認していないこと
内閣府が示す取組指針は取得して確認していないため、この記事では扱っていません。条文の範囲では、事業所が避難支援の責任を負うとは読み取れませんが、個別の事案で責任があるかどうかの判断は、この記事ではしません。
市町村ごとの名簿の様式、提供先、同意の取り方も確認していません。実際の運用は、事業所所在地と利用者の住所地の市町村に確認してください。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- 事業所所在地と利用者の住所地の市町村の防災担当課または福祉担当課に、避難行動要支援者名簿と個別避難計画の運用、事業所が情報の提供先になるか、提供を受けるときの条件を確認し、確認表に残す
- 利用者ごとに、名簿への登録の有無と個別避難計画の作成状況を、利用者本人・家族または担当のケアマネジャーに確認して確認表に書く(登録の有無を事業所が判断しない)
- 名簿情報や個別避難計画の情報を受け取る場合に備え、閲覧できる職員、保管場所、持ち出しの可否、退職者への扱いを、守秘義務の定めと合わせて決める
- 災害時の連絡と代替対応は業務継続計画に書き、市町村から求められたことと事業所で決めたことを分けて記録する
一次資料
個別地域の運用は指定権者で確認してください。