運営 / 更新 2026-10-22
認知症の利用者が行方不明になったとき:訪問介護事業所の連絡先と備え(警察庁の統計・通達)
認知症のある利用者が外出して戻らないと分かったときは、実務としては、気づいた時点で家族とケアマネジャーに連絡し、警察への届出につなげます。警察庁の統計では、所在確認・死亡確認された人の94.8%が、届出の受理から3日以内に所在確認されています。
認知症の行方不明者は、令和7年に1万7,345人
警察庁の「令和7年における行方不明者届受理等の状況」によると、令和7年の行方不明者数は8万486人で、このうち原因・動機が認知症のものは1万7,345人(構成比21.6%)です。前年から776人減りましたが、同資料は依然として高い水準としています。男女別では男性が9,715人(56.0%)、女性が7,630人(44.0%)です。
ここでいう認知症は、届出人が申し出た「認知症又はその疑い」を指します。診断を受けた人に限らない数字です。訪問介護の利用者には、認知症の診断がなくても物忘れが進んでいる人がいるため、診断の有無にかかわらず、一人で外出して戻れなくなる可能性を事業所で共有しておく意味があります。
この記事で決めること
訪問介護員やサービス提供責任者が、認知症のある利用者が外出して戻らない、訪問しても自宅におらず行方が分からないという場面に備えて、警察庁の統計が示す発見までの時間、警察が届出人から聴く事項、家族とケアマネジャーへの連絡、名前の記入やGPS機器など事前の備えを確認するための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、利用者が行方不明になったときの連絡メモ(利用者の氏名・年齢・身長や体格・当日の服装、最後に確認した日時と場所、過去に一人歩きした場所と立ち回り先、自分の名前を名乗れるかと通称名の有無、家族・ケアマネジャー・事業所の連絡先、連絡した相手と時刻の記録)を作成できる状態を目指します。
発見は早いほどよい:94.8%が3日以内、4日目以降は厳しくなる
同資料のトピックスは、令和7年中に所在確認・死亡確認された認知症行方不明者16,729人のうち、94.8%(15,856人)が受理から3日以内に所在確認されたとしています。受理した当日の所在確認が1万1,369人で最も多く、2日から3日以内が4,487人です。
一方で、受理から4日以降に所在確認・死亡確認された人のうち、所在確認された割合は53.7%(559人中300人)で、受理から15日以降は死亡確認の割合の方が高くなります。同資料は迅速な発見活動を展開することが重要としています。事業所としては、行方が分からないと気づいたとき、様子を見るより先に家族とケアマネジャーへ連絡することが、早い届出につながります。
警察が届出人から聴く事項:事業所の支援記録が役に立つ
警察は届出の受理時に、届出人から行方不明者の立ち回り先などを聴きます。警察庁は令和7年3月13日の通達「認知症に係る行方不明者発見活動について」で、聴く事項として、行方不明者が過去に立ち回った地域や一人歩きした場所があるか、自分で名乗ることができるか、通称名などの自称名はないかを挙げています。あわせて、認知症又は認知症の疑いによる行方不明の申し出があった場合は、生命・身体に危険が生じるおそれがあるものとして、迅速に発見活動を行うよう警察に求めています。
この通達は警察に向けたもので、介護事業者に義務を課すものではありません。ただ、訪問介護員は家族より利用者の外出の癖を知っていることがあります。決まった時間に出かける、昔の職場や生家の方向へ向かう、呼ばれ慣れた通称があるといった情報は、日頃の支援記録に残しておくと、家族やケアマネジャーが警察に伝える材料になります。
若年性認知症の人は、外見から認知症の行方不明者と気づかれにくい場合があるとも、通達は触れています。
事業所の連絡先と、運営基準の条文の範囲
運営基準の条文が定める連絡の範囲は、サービスの提供により生じた事故です。第37条は、指定訪問介護の提供により事故が発生した場合に、市町村、利用者の家族、居宅介護支援事業者等へ連絡し、事故の状況と処置を記録することを事業者に求めています(訪問介護の事故発生時の対応(基準第37条))。
利用者が訪問の前後や訪問のない時間に外出して戻らない場合が、この「提供により生じた事故」に当たるかどうかは、条文に書かれていません。報告が必要な範囲と様式は、指定権者である市町村に確認する事項です。
条文の範囲に当たるかどうかにかかわらず、実務では連絡の順番を決めておくと動きやすくなります。サービス提供責任者への報告、家族への連絡、ケアマネジャーへの連絡、警察への届出が出されたかの確認、連絡した相手と時刻の記録です。運営規程に定める緊急時等における対応方法に、行方が分からない場合の連絡先を加えておく方法もあります。
事前の備え:名前の記入、QRコード付きシール、GPS機器
身元の確認が難しくなるのは、氏名が分からないときです。通達はこの点から、市町村等に、着衣や靴への記名、名札の装着、QRコードが掲載されたシール等の活用の重要性を地域住民に周知するよう働き掛けるとしています。事業所が衣類の整理や持ち物の確認をする場面では、記名の有無を家族やケアマネジャーに伝えるところまでが現実的です。
GPS機器等(紛失防止タグを含む)については、警察庁の統計が、活用して所在確認・死亡確認された認知症行方不明者の約85%が受理当日に所在確認されたとしています。事例として、ケアマネジャーが持たせていたGPS機器の位置情報をもとに捜索し、受理から約1時間後に自宅から約6キロメートルの路上で発見した例が載っています。
ただし通達は、認知症基本法が認知症の人の意思決定の支援と権利利益の保護を掲げていることを踏まえ、本人の意向に反してGPS機器等を装用させることがないよう配慮するとしています。導入は事業所が決めることではありません。本人、家族、ケアマネジャー、市町村の窓口と相談し、本人が納得できる形を選びます。
事業所で決めておくこと
訪問する職員全員が、次の3点を知っている状態にしておきます。一人歩きの経験がある利用者のリスト(過去に歩いた場所、立ち回り先、名乗れるか、通称)を支援記録のどこに置くか、行方が分からないと気づいたときの連絡の順番と担当者、連絡した相手と時刻の記録の様式です。誰が警察へ届出をするかは家族の事情によって変わるため、ケアマネジャーとあらかじめ確認します。
このページは警察庁の統計と通達の要約であり、個別の利用者への対応、捜索の方法、救急や警察への通報の判断を示すものではありません。危険が差し迫っているときは、事業所で抱え込まず、家族・ケアマネジャー・警察などに速やかに連絡してください。生活環境が整わない利用者に気づいたときの連絡先はセルフ・ネグレクト・ごみ屋敷の利用者への訪問介護で整理しています。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- 認知症のある利用者について、過去に一人歩きした場所、立ち回り先、名乗れるか、通称で呼ばれていないかを、ケアマネジャーや家族から聞いて支援記録に残しておく
- 訪問時に利用者が見当たらない、外出して戻らないと分かったら、サービス提供責任者へ報告し、家族とケアマネジャーへ連絡して、警察への行方不明者届が出されたかを確かめる
- 警察へ伝える情報(最後に確認した日時と場所、服装、立ち回り先、名乗れるか)を連絡メモにまとめ、連絡した相手と時刻を記録する。受理から3日以内の発見が大半を占めるため、連絡は後回しにしない
- 再発の備えとして、着衣・靴への名前の記入や名札、QRコード付きのシール、GPS機器などをケアマネジャー・家族・市町村と相談する。GPS機器は本人の意向を踏まえて決める
関連ガイドで計画をつなぐ
隣接する判断をつなぎ、記事単体で計画を止めないためのガイドです。
よくある質問
迷いやすい範囲と確認順を、質問ごとに整理します。
認知症の行方不明者は、どのくらいで見つかりますか?
警察庁の統計では、令和7年中に所在確認・死亡確認された認知症行方不明者16,729人のうち、94.8%(15,856人)が届出の受理から3日以内に所在確認されています。一方、受理から4日以降に所在確認・死亡確認された人のうち所在確認の割合は53.7%で、15日以降は死亡確認の割合の方が高くなります。時間が経つほど厳しくなるため、気づいた時点で家族とケアマネジャーに連絡します。
警察に行方不明者届を出すとき、何を聞かれますか?
警察庁の通達は、届出人から、行方不明者が過去に立ち回った地域や一人歩きした場所があるか、自分で名乗ることができるか、通称名などの自称名はないかを聴くよう求めています。事業所が日頃の支援記録から把握している情報は、家族や警察に伝える材料になります。
GPS機器を利用者に持たせるのは、事業所が決めてよいですか?
事業所が一方的に決める事項ではありません。警察庁の通達は、認知症基本法が意思決定の支援と権利利益の保護を掲げていることを踏まえ、認知症の人の意向に反してGPS機器等を装用させることがないよう配慮するとしています。導入は本人、家族、ケアマネジャー、市町村と相談して決めます。
一次資料
個別地域の運用は指定権者で確認してください。
- デジタル庁(e-Gov法令検索)「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(第8条・第27条・第29条・第37条・第39条)」(確認日 2026-10-04)
- 警察庁生活安全局人身安全・少年課「令和7年における行方不明者届受理等の状況(令和8年6月)」(6 認知症行方不明者の状況(p.6)、トピックス 認知症行方不明者の早期発見に向けて(p.8〜11)、4 原因・動機別(p.4))(確認日 2026-10-22)
- 警察庁「認知症に係る行方不明者発見活動について(通達)(令和7年3月13日 警察庁丁人少発第205号)」(1 行方不明者発見活動上の留意事項(届出人からの聴取)、2 迷い人として保護時の留意事項、3 関係行政機関等との連携に際しての留意事項(身元確認のための取組、GPS等の位置情報を取得等する機器の周知))(確認日 2026-10-22)