運営 / 更新 2026-10-13
訪問介護員の直行直帰に事業場外みなし労働時間制は使えるか:適用できない3つの場合
訪問介護員は事業所に寄らず、自宅から利用者宅へ直行し、そのまま帰ることがあります。労働時間の記録を省くために、労働基準法第38条の2の事業場外みなし労働時間制を使えるのかと考える経営者もいます。この制度は労働時間を算定し難いときに限って使えるため、このページは、厚生労働省の資料で、適用できない場合、みなし時間の決め方、労使協定と届出、割増賃金の扱いを整理します。
この記事で決めること
訪問介護員を直行直帰で働かせている事業所の経営者が、事業場外みなし労働時間制を使えるかを、適用できない場合、みなし時間の決め方、労使協定と届出、時間外・休日・深夜の扱いから、公式資料で判断の材料にするための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、直行直帰の労働時間管理の点検票(訪問先と時刻の指示方法、連絡手段、適用できない3つの場合との照合、現行の労働時間の把握方法)を作成できる状態を目指します。
みなし労働時間制は、労働時間を算定し難いときだけの制度
労働基準法第38条の2は、労働者が労働時間の全部または一部を事業場外で働いた場合に、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなすと定めています。ただし、その業務を行うために通常は所定労働時間を超えて働く必要がある場合は、その業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなします。
東京労働局のパンフレットは、この制度を、使用者の指揮監督が及ばないために労働時間の算定が困難な場合に、使用者の算定義務を免除する制度と説明しています。事業場の外で働くというだけでは足りず、労働時間を算定し難いことが前提です。直行直帰という働き方そのものが、制度の対象になる理由にはなりません。
適用できない3つの場合と、訪問介護の運用との照らし方
パンフレットは、事業場外で働いていても使用者の指揮監督が及んでいる場合は労働時間を算定できるため、みなし労働時間制を適用できないとして、3つの場合を挙げています。事業所が訪問介護員への指示をどう出しているかを、この3つに照らして確認します。
訪問介護では、勤務表やシフトで訪問先と訪問時刻を前もって決め、その予定に沿って訪問する運用が一般的です。その運用が、事業場で訪問先や帰社時刻などの具体的な指示を受け、指示どおりに従事する場合に当たるかどうか、また訪問中に電話などで随時指示を出していないかは、事業所の実際の運営で決まります。このページは個々の事業所の適用の可否を判断しません。
| 場合 | 訪問介護で照らす点 |
|---|---|
| 何人かのグループで事業場外労働に従事し、メンバーに労働時間を管理する者がいる | 同行訪問や2人で行う訪問の場面で、同行する職員が管理者の立場にないか |
| 無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している | 訪問中に事業所からの電話やチャットで、訪問の変更や追加の指示を受けていないか |
| 事業場で、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的な指示を受けた後、事業場外で指示どおりに従事し、事業場に戻る | 勤務表や当日の連絡で、訪問先と訪問時刻が具体的に決まっていないか |
適用できる場合でも、みなし時間と割増賃金の決まりは残る
みなし労働時間制が使える場合の1日の労働時間は、労働時間の全部が事業場外なら所定労働時間です。通常は所定労働時間を超える必要がある業務なら、その通常必要とされる時間になります。事業場内でも働いた日は、事業場内の時間を別に把握して、みなし時間と合計します。
通常必要とされる時間を労使協定で定めたときは、その協定の時間が使われます。協定で定める時間が法定労働時間の1日8時間を超える場合は、様式第12号で労働基準監督署長へ届け出ます。8時間以下の場合は届出が不要とされています。
みなし制が適用されても、労働時間の規定以外の休憩、深夜業、休日の規定は適用されます。みなし時間と事業場内の労働時間の合計が1日8時間を超えれば、超えた時間は時間外労働となり、2割5分増以上の割増賃金が必要です。法定休日の労働も、休日労働として扱われます。
訪問介護の通達と判例から見る、労働時間を記録する理由
厚生労働省の「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日基発第0827001号)は、事業場から利用者宅、利用者宅から次の利用者宅への移動時間が通常の移動に要する時間程度であれば、労働時間に当たると考えられるとしています。業務報告書の作成が業務上義務づけられていて、使用者の指揮監督に基づく場合も、労働時間に当たります。
この通達に事業場外みなし労働時間制の記載はなく、移動や報告書の作成を労働時間として把握するよう求める資料として読みます。最高裁第二小法廷の平成26年1月24日の判決(阪急トラベルサポート事件)は、旅行日程があらかじめ具体的に確定している添乗業務にみなし制の適用を認めませんでした。業務の内容が事前に確定し、日報で詳しく報告を受ける仕組みが、判断の材料とされています。
訪問介護でも、訪問先と時刻の確定、サービス提供記録による報告という似た要素はあります。ただし、判決は添乗業務についての判断で、訪問介護にそのまま当てはまるとは限りません。導入を考えるときは、点検票で運用を書き出し、管轄の労働基準監督署に確認します。
このページの範囲と、あわせて確認するページ
このページが確認したのは、労働基準法第38条の2の条文、東京労働局のパンフレット、訪問介護労働者の通達です。個々の訪問介護員にみなし制を適用できるか、協定の時間をいくらにするかは判断しません。結論は、事業所の指示の出し方と実際の働き方によって変わります。
移動時間や待機時間が労働時間になる条件は訪問介護の労働時間の考え方で、時間外の割増賃金は時間外・休日・深夜の割増賃金で、36協定の届出は就業規則と時間外労働の協定で確認できます。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- 訪問介護員への指示の出し方を書き出す。勤務表やシフトで訪問先と訪問時刻を前日までに伝えているか、訪問中に電話やチャットで随時指示を出しているか、複数人で訪問する場面があるかを、実際の運用どおりに書く
- 書き出した運用を、厚生労働省の資料にある適用できない3つの場合(メンバーに管理者がいるグループでの従事、無線・ポケットベル等で随時指示を受ける、事業場で訪問先・帰社時刻等の具体的な指示を受けて従事する)と照らし、当てはまる場面に印を付ける
- 移動時間、業務報告書の作成時間、待機時間をいまどのように記録しているかを書く。通達が労働時間に当たり得るとする時間が、実際の記録から漏れていないかを確認する
- みなし労働時間制を導入するかどうかは、この点検票を持って管轄の労働基準監督署または社会保険労務士に確認する。導入しない場合は、実際の始業・終業時刻を記録する方法を決める
一次資料
個別地域の運用は指定権者で確認してください。
- 厚生労働省「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(確認日 2026-09-22)
- e-Gov法令検索(労働基準法)「労働基準法 第38条の2(事業場外労働)」(確認日 2026-10-13)
- 厚生労働省 東京労働局「事業場外労働のみなし労働時間制(労働基準法第38条の2)の解説パンフレット」(確認日 2026-10-13)