運営 / 更新 2026-10-23

訪問介護で原因不明のあざ:事故報告と虐待通報の切り分け

訪問介護員が利用者の腕や背中に原因の分からない内出血やあざを見つけたとき、転倒などの事故かもしれず虐待かもしれませんが、事業所が原因を決めつける必要はありません。厚生労働省の事故報告の通知は、医師の診断を受けて治療が必要になった事故を報告の対象とし(居宅サービスでは様式の活用が望まれる扱い)、高齢者虐待防止法は、虐待を受けたと思われる高齢者を発見した人に、場面に応じて義務または努力義務として通報を求めています。この記事は、この2つの経路を見つけた時点から順番に切り分けます。

事務机に置かれたノートパソコンと書類・手帳の写真

原因が分からない段階では、事故と虐待の両方の経路を同時に開けておく

内出血やあざの原因は、見ただけでは決まりません。ベッドの柵や家具にぶつけた、薬の影響で出やすい、といった事故や体質に由来するものもあれば、暴力によるものもあります。原因を事業所が確定するのは通報や報告の前提ではなく、確定しないまま経路を開けておくことが、この記事の考え方です(運用の提案)。

高齢者虐待防止法第7条第1項は、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した人は、その高齢者の生命または身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに市町村へ通報しなければならないと定めています。同条第2項は、それ以外の場合も、速やかに通報するよう努めなければならないとしています。条文の文言は「受けたと思われる」で、虐待があったと確認できたときに限っていません。

一方、厚生労働省の令和6年11月29日付通知(老高発1129第1号ほか)は、介護保険施設等における事故の報告様式を示したもので、原則として全て報告するものを、死亡に至った事故と、医師の診断を受けて投薬や処置など何らかの治療が必要となった事故の2つとしています。訪問介護などの居宅サービスについては、その他の居宅等の介護サービスの事故報告でも可能な限り活用してほしいとされており、報告の範囲は市町村の取扱いで確認します。その他の事故も、各自治体の取扱いによるとされています。

このため、受診して治療が必要と診断されたあざは事故報告の対象になり得ますが、受診せず様子を見る程度のあざは、通知の原則の対象には当たらず、報告するかどうかは市町村の取扱いで決まります。事故報告に当たらなくても、虐待の疑いがあれば、通報は別の経路で考えます。

原因の分からない内出血・あざ:事故の報告と虐待の通報の違い
経路根拠対象になる場面義務の強さ
事故として市町村へ報告老高発1129第1号の通知 2医師の診断を受け、投薬や処置などの治療が必要になった事故(その他は自治体の取扱い)通知は施設向けの原則。居宅サービスの範囲は市町村に確認
家族など養護者による虐待の通報高齢者虐待防止法 第7条養護者による虐待を受けたと思われる高齢者を発見したとき生命・身体に重大な危険があるときは通報義務、それ以外は努力義務
同じ事業所の職員による虐待の通報高齢者虐待防止法 第21条第1項自分の事業所の従事者による虐待を受けたと思われる高齢者を発見したとき通報義務
他の事業所・施設の従事者による虐待の通報高齢者虐待防止法 第21条第2項・第3項他の養介護施設・事業の従事者による虐待を受けたと思われる高齢者を発見したとき生命・身体に重大な危険があるときは通報義務、それ以外は努力義務

この記事で決めること

訪問介護の管理者・訪問介護員が、利用者の原因不明の内出血やあざに気づいたとき、事故報告と虐待の通報という2つの経路を、原因を確定しないまま見つけた時点から順に切り分けるための考え方と確認順を整理します。

読み終えたら、原因不明のあざの記録票(発見日時・場所・大きさと色・本人の発言・受診の有無・伝えた先と日付)を作成できる状態を目指します。

見つけてから伝えるまでの順番

次の順番は、条文と通知から導ける範囲と、事業所の運用の提案を分けて並べたものです。個別の事案への当てはめは、市町村の高齢者虐待の担当窓口や指定権者に確認してください。

1. 見つけた訪問介護員は、場所、大きさ、色、本人が話した内容を、見たままの事実として記録し、推測や評価は書かずにサービス提供責任者または管理者へ報告します(運用の提案)。その場で家族や他の職員に原因を問いただすことは避けます。

2. 管理者は、本人の痛みや体調に問題がないかを確かめ、医療的な対応が必要そうなときは受診につなぎます。医師の診断を受けて治療が必要となった場合、事故報告の対象になり得ます(通知)。

3. 管理者は、あざに関わった可能性のある人が、家族などの養護者か、同じ事業所の職員か、それ以外かを、記録から分けて考えます。原因が分からないときは、分からないと書いたまま、次の手順に進みます。

4. 家族などの養護者による虐待の疑いがある場合は、法第7条により市町村へ通報します。生命・身体に重大な危険があるときは義務で、それ以外は努力義務です。同じ事業所の職員による疑いがある場合は、法第21条第1項により通報義務があります。

他の事業所や施設の従事者による疑いは、第21条第2項(重大な危険があるとき義務)と第3項(努力義務)の対象です。

5. 受診して治療が必要となった事故の場合は、市町村の取扱いに沿って事故報告をします。通知は別紙様式をできるだけ使うことを求め、従来の市町村の様式も妨げないとしています。

第1報は事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安とされています。

6. 担当のケアマネジャーにも状況を共有します(運用の提案)。家族への説明は、虐待の疑いを前提にした言い方を避け、見た事実と、今後の様子を見る旨を伝える形が現実的です。説明の仕方で迷うときは、通報先の市町村に相談してください。

通報した人は守られるか

高齢者虐待防止法第7条第3項は、刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第7条第1項・第2項の通報をすることを妨げるものと解釈してはならないと定めています。第21条第6項も、同条第1項から第3項までの通報について同じ趣旨を定め、虚偽であるものと過失によるものは除かれます。

同条第7項は、養介護施設従事者等は、第1項から第3項までの通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けないと定めています。この不利益取扱いの禁止は養介護施設従事者等の通報についての定めで、家族など養護者分の第7条には同趣旨の明文がありません。通報の窓口、義務と努力義務の分かれ方は、高齢者虐待の通報義務:市町村への通報と通報者の保護で読めます。

この記事で決めないこと

あざの原因が虐待に当たるかどうかは、事業所が判断するものではなく、通報を受けた市町村が事実を確認して対応するものです。原因が分からないことを理由に、通報や報告を先送りすることは、この記事の勧める運用ではありません。

高齢者虐待防止法の「虐待」には、身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行(第2条第4項第1号イ、訪問介護では第5項第2号が準用する第1号イ)など、類型があります。具体的な事案がどの類型に当たるかは、市町村に確認してください。

次に読む記事

事故報告書の標準様式の項目と、報告が必要な事故の考え方は、訪問介護のヒヤリハット記録と事故報告書の書き方:厚生労働省の標準様式の項目と市町村への報告で読めます。

事故が起きたときに運営基準が求める連絡と記録は、訪問介護の事故発生時の対応(基準第37条):連絡・記録・損害賠償で読めます。

家族などへの虐待の疑いを見つけたときの通報の義務は、高齢者虐待の通報義務:市町村への通報と通報者の保護で読めます。

実行チェックリスト

次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。

  1. あざを見つけたら、場所・大きさ・色・本人の発言を見たままに記録し、原因を決めつけずにサービス提供責任者か管理者へ当日中に報告する
  2. 管理者は、受診の要否を確かめ、医師の診断で治療が必要となった場合は事故報告の対象かを市町村の案内で確認し、第1報は遅くとも5日以内を目安に出す
  3. 家族・同じ事業所の職員など関わった可能性のある人の区分を記録から分け、虐待を受けたと思われるときは市町村へ通報し、通報日と相手先を記録票に残す
  4. 担当のケアマネジャーへ状況を共有し、次回以降の訪問でも同じ部位と新しいあざの有無を確認して記録する

一次資料

個別地域の運用は指定権者で確認してください。

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