運営 / 更新 2026-10-15
訪問介護のヒヤリハット記録と事故報告書の書き方:厚生労働省の標準様式の項目と市町村への報告
訪問介護で転倒や誤薬などの事故が起きたとき、あるいは事故になりかけたとき、何を記録し、どの事故を市町村へ報告するのかを、厚生労働省の令和6年11月29日付通知と、京都府・徳島県の案内で整理しました。国の標準様式には9つの項目があり、死亡した事故と、医師の診断を受けて治療が必要になった事故は原則として全て報告するものとされています。ヒヤリハットの記録を義務づける定めは確認した範囲では見つからず、記録の項目は標準様式を参考にした運用例として示し、事故の連絡・記録・損害賠償の条文は訪問介護の事故発生時の対応(基準第37条):連絡・記録・損害賠償で扱います。
この記事で決めること
訪問介護の事業者が、ヒヤリハットの記録と事故報告書に何を書き、どの事故を市町村へ報告するかを知るための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、ヒヤリハット・事故の記録様式(発生状況、対応、原因分析、再発防止策、評価時期)と、市町村への報告の確認表を作成できる状態を目指します。
ヒヤリハットと事故の違い、条文が求める範囲
運営基準第37条が定める連絡・記録・賠償の義務は、サービスの提供により事故が発生した場合のものです。事故に至らなかったヒヤリとした場面、ハッとした場面(ヒヤリハット)の記録を義務づける定めは、この記事で確認した厚生労働省の通知には出てきません。
京都府は、事故が発生したときの対応に加えて、ヒヤリハットの蓄積や分析を行い、事故防止の対策にも各事業所で取り組むよう依頼しています。確認した範囲では、ヒヤリハットについては、この依頼のように事業所での蓄積と分析が求められている一方、記録の様式や保存期間を定めた資料は見つかっていません。
この記事では、事故は市町村への報告も含めた手続き、ヒヤリハットは事業所内の記録と分析、と分けて整理します。事故の記録そのものは、完結の日から2年間の保存が必要です(保存期間は訪問介護の記録の保存義務・保存期間で確認できます)。
市町村へ報告する事故:国の通知が示す対象と期限
厚生労働省は令和6年11月29日付の通知(介護保険最新情報Vol.1332)で、事故報告の標準様式を示しました。報告の対象は、死亡に至った事故と、医師の診断を受けて投薬や処置など何らかの治療が必要になった事故で、この2つは原則として全て報告するものとされています。それ以外の事故の報告は、各自治体の取扱いによります。
報告の期限は、第1報を事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に提出することです。その後、状況の変化などに応じて追加の報告を行い、事故の原因分析や再発防止策は作成でき次第報告します。報告の方法は、原則として電子メール等の電磁的方法です。
| 項目 | 通知の内容 |
|---|---|
| 原則として全て報告する事故 | 死亡に至った事故、医師の診断を受け投薬・処置等の治療が必要となった事故 |
| 上記以外の事故 | 各自治体の取扱いによる |
| 第1報の期限 | 事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安(様式の1〜6の項目を可能な限り記載) |
| 追加の報告 | 状況の変化等に応じて行い、原因分析・再発防止策は作成次第報告 |
| 報告の方法 | 原則、電子メール等の電磁的方法 |
標準様式の9項目と、訪問介護で書くときの読み替え
標準様式(事故報告書)は、1事故状況の程度、2事業所の概要、3対象者、4事故の概要、5事故発生時の対応、6事故発生後の状況、7事故の原因分析、8再発防止策、9その他、の9項目で構成されています。第1報は少なくとも1から6までを可能な限り書くものとされ、7と8は作成でき次第、後から報告します。
通知は、この様式が介護保険施設、認知症対応型共同生活介護、特定施設などの事故を対象に作られたものだと述べたうえで、その他の居宅等の介護サービスの事故報告にも可能な限り活用してほしいとしています。様式の発生場所の選択肢は居室、トイレ、廊下、浴室など施設内の場所が中心なので、利用者宅で起きた事故をどの選択肢で書くかは、通知に指示がないため、「その他」の欄に利用者宅のどの部屋かを書くなどの方法を、市町村に確認して決めます。
7の原因分析は「本人要因、職員要因、環境要因の分析」、8の再発防止策は「手順変更、環境変更、その他の対応、再発防止策の評価時期および結果等」を書く欄です。訪問介護の事業者は、市町村が別の様式を定めている場合でも、通知が項目を含めるよう求めているため、この9項目が書けているかを確かめておくと、様式が変わっても対応できます。
原因分析と再発防止策の書き方の例(徳島県の案内)
徳島県は、同県の様式1の項目7と8(国の標準様式と同じ番号の項目)を再発防止の核心部分として、具体的に書くよう案内しています。原因は「不注意だった」で終わらせず、本人要因(身体機能の変化、認知症の症状、当日の体調など)、職員要因(知識・技術の不足、手順の不備、情報共有の漏れなど)、環境要因(設備・備品の不具合、床の状態、照明、時間帯による人員配置など)の3つで分析する例を示しています。
再発防止策も、「声掛けを徹底する」ではなく「介助手順書に確認項目を追加する」、「注意して歩いてもらう」ではなく「手すりを増設する、滑り止めマットを敷く」のように、手順や環境の変更として書くことを例に挙げています。さらに、対策が有効だったかを確認する評価の時期を設定することも示しています。
訪問介護では、利用者宅の環境を事業所だけでは変えられないため、環境の変更は利用者・家族やケアマネジャーに提案して合意を得る形になります。提案した内容と、合意が得られたかどうかも記録に残します。
市町村ごとに違う点:報告先、様式、期限、対象
国の通知が示す対象と期限は、あくまで標準です。通知自体が、その他の事故の報告は自治体の取扱いによるとし、市町村等で用いられている様式の使用を妨げないとしています。実際の報告先、様式、期限、対象は、事業所の所在地と利用者の被保険者の属する市町村に確認します。
京都府は、事故報告を被保険者の属する市町村と、事業所・施設が所在する市町村の両方に速やかに行い、同時に府の管轄の保健所にも報告するよう案内しています。様式は各市町村の指示に従い、市町村で様式が定められていない場合は厚生労働省の参考様式を使うとしています。
徳島県の取扱要領は、5日以内の報告を原則としつつ、死亡・重篤、行方不明、警察の関与、トラブルの可能性がある事故は事故発生当日(夜間・休日は翌開庁日)に報告するとしています。報告の対象にも、サービス提供中の送迎や通院、利用者以外の職員や第三者の負傷、職員の法令違反、個人情報の紛失などを含めています。
運営指導の指摘例を公表した岐阜県は、事故を発生(発見)から1週間以内に県へ報告するよう指摘しています(訪問介護の運営指導で指摘された項目:岐阜県・岩手県・新宿区の令和6年度の公表例で確認できます)。同じ事故でも、自治体によって求められる期限と範囲が異なります。
事業所で用意する記録と、確認の順番
ここからは、通知や自治体の案内を参考にした運用の例です。事故報告書は標準様式の9項目をそのまま使えるようにしておき、ヒヤリハットは同じ項目から、日時、場所、利用者、何が起きかけたか、そのときの対応、考えられる原因、次に変えることを抜き出した短い様式で残す方法があります。
事故報告とヒヤリハットを同じ様式の濃淡で扱うと、記録する人の負担が減り、同じ種類の場面が重なっていないかを後から集計しやすくなります。徳島県も、発生場所や事故の種別を集計して頻発する事例を把握すること、事故発生時の状況をカンファレンスで共有することを案内しています。
確認の順番は、1つ目に事業所所在地と被保険者の属する市町村の報告様式と報告対象を確かめる、2つ目に事故の種類ごとに第1報の連絡先と担当者を決める、3つ目にヒヤリハットを集める人と集計する頻度を決める、4つ目に原因分析と再発防止策の評価時期を会議の議題にする、の順です。個別の事故が報告対象になるか、賠償の対象になるかは、事実関係によって変わるため、この記事では判断しません。
次に知りたいこと
事故が起きたときの条文上の義務は訪問介護の事故発生時の対応(基準第37条):連絡・記録・損害賠償、苦情と事故と単独訪問のリスクへの備えは苦情・事故と単独訪問リスクへの備え、BCP・感染症・虐待防止を含む安全の体制は訪問介護のBCP・感染症・虐待防止・事故対応で確認できます。賠償に備える保険は訪問介護の損害賠償(基準第37条第3項)と賠償責任保険の補償範囲の整理にあります。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- 事業所所在地と利用者の被保険者の属する市町村の介護保険担当課に、事故報告の様式、報告対象、期限、報告方法を確認し、確認表に残す
- 厚生労働省の標準様式の9項目を写し、訪問先の利用者宅で書ける形に直した記録様式を作る(発生場所は利用者宅の部屋などを書く欄にする)
- ヒヤリハットは事故に至らなかった場面を同じ様式の短縮版で残す欄を決め、集める人と集計する頻度を決める
- 原因分析は本人・職員・環境の3つの要因で書き、再発防止策には手順の変更または環境の変更と、効果を確かめる時期を書く
一次資料
個別地域の運用は指定権者で確認してください。
- デジタル庁(e-Gov法令検索)「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(第8条・第27条・第29条・第37条・第39条)」(確認日 2026-10-04)
- 厚生労働省「介護保険施設等における事故の報告様式等について(老高発1129第1号・老認発1129第1号・老老発1129第1号、令和6年11月29日、介護保険最新情報Vol.1332)」(確認日 2026-10-15)
- 京都府「事故報告について(介護保険事業者向け)」(確認日 2026-10-15)
- 徳島県「介護保険事業者等事故報告取扱要領および報告様式の改訂について」(確認日 2026-10-15)