運営 / 更新 2026-10-08

訪問介護員の腰痛予防:厚生労働省の腰痛予防対策指針の介護作業と労災保険の適用

訪問介護員の仕事には、移乗、入浴、排泄、おむつ交換など、腰に負担のかかる介助が含まれます。厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」は、対象とする作業のひとつに福祉・医療分野の介護・看護作業を挙げ、別紙で介護・看護作業を行う場として訪問介護・看護を挙げています。この記事は、指針の本文で確認できた事業者の対策を、訪問介護事業所が取り組む順に整理し、労災保険の入口を最小限で説明します。移動時間や賃金の扱いは雇用・勤怠と訪問介護の移動時間で扱います。

この記事で決めること

訪問介護員の腰痛を防ぎたい事業者が、厚生労働省の職場における腰痛予防対策指針で介護・看護作業に示されたリスクの見積り、福祉用具、抱え上げの原則、腰痛の健康診断と教育、利用者の家庭への説明を確認し、労災保険の適用の入口を押さえるための考え方と確認順を整理します。

読み終えたら、訪問介護員の腰痛予防の実施メモ(リスクの見積りと健康診断・教育の計画)を作成できる状態を目指します。

指針が訪問介護の腰痛予防で求めていること

厚生労働省のページによると、保健衛生業(社会福祉施設や医療保健業を含む)の腰痛の発生件数は増加を続けており、腰痛発生率(死傷年千人率)は0.25と、全業種平均の0.1を大きく上回っています。同ページは、平成25年に指針を改訂し、介護・看護作業の抱え上げにリフト等を使うことを示したと説明しています。

指針の別紙は、福祉・医療分野等における介護・看護作業の対象に、社会福祉施設や医療機関と並べて訪問介護・看護を挙げています。対策の流れは、腰痛の発生に関与する要因を把握し、リスクを見積もり、リスクを回避または低減する措置を検討して実施するものです。

指針は事業者が講じる措置を示すもので、個別の事業所が指針に適合しているかを判断するものではありません。この記事も、適合の判断はせず、指針に書かれた内容の整理にとどめます。

リスクの見積りと、介助の方法の見直し

指針は、介護・看護作業の腰痛に、利用者側の要因、労働者の要因、福祉用具の状況、作業姿勢・動作、作業環境、組織体制、心理・社会的要因などが関わるとして、これらを的確に把握するよう求めています。リスクの見積りは、要因ごとに「高い」「中程度」「低い」などで評価し、その作業全体のリスクを評価します。

対策の内容として、指針は、利用者の残存機能や介助への協力度を踏まえて介助の方法を選ぶこと、福祉用具を積極的に使うこと、作業姿勢や動作を見直すことを挙げています。移乗、入浴、排泄の介助で利用者を抱え上げる作業は腰への負担が大きいため、全介助が必要な利用者にはリフト等を積極的に使い、原則として人力による抱え上げは行わせないとしています。

座位が保てる利用者にはスライディングボード、立位が保てる利用者にはスタンディングマシーンなどの使用も含めて検討するよう、指針は述べています。作業標準は、利用者の状態、使える福祉用具、作業人数、作業時間、作業環境を考えて、利用者ごと、介助の種類ごとに作り、利用者の状態が変わるたびに見直すこととされています。

指針の別紙が介護・看護作業で挙げる主な対策
対策指針に書かれた内容
要因の把握とリスクの見積り利用者・労働者・福祉用具・姿勢・環境・組織体制などの要因を把握し、高い・中程度・低いなどで評価する
福祉用具の利用福祉用具を積極的に使う。全介助の利用者にはリフト等を使い、原則として人力による抱え上げは行わせない
作業標準利用者ごと、介助の種類ごとに作り、利用者の状態が変わるたびに見直す
休憩・作業の組合せ適宜、休憩時間を設け、同じ姿勢が続かないよう他の作業と組み合わせる

利用者の自宅という職場で、事業所がすること

指針の別紙は、対象者の家庭が職場となる訪問介護・看護では、腰痛予防の観点から作業環境の整備が十分になされていないことが懸念されるとしています。このため、事業者は各家庭に説明し、腰痛予防の対応策への理解を得るよう努めることとされています。

ベッドの高さを調整する、介助に使う空間を確保する、福祉用具を使うといった対応は、利用者の自宅の状況に左右されます。指針に書かれているのは、事業者が各家庭に説明して理解を得るよう努めることまでです。説明の方法や、福祉用具について居宅介護支援事業所に相談するかどうかは、指針に定めがないため、事業所が運用として決めます。

利用者宅の環境は事業所の都合で変えられないため、どこまで整えられるかは個別に違います。整えられない場合の介助の方法は、作業標準に含めて決めておくことが考えられます。

腰痛の健康診断と労働衛生教育

指針は、重量物取扱い作業、介護・看護作業など腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する労働者に対して、その作業に配置するときと、その後6月以内ごとに1回、医師による腰痛の健康診断を行うこととしています。配置前の健康診断では、既往歴と業務歴、自覚症状、脊柱の検査、神経学的検査、脊柱機能検査などを行う項目が挙げられています。

労働衛生教育も、介護・看護作業に従事する労働者を、配置するときとその後必要に応じて行うとされています。教育の項目には、腰痛の発生状況と原因、発生要因の特定とリスクの見積り方法、発生要因の低減措置などが含まれます。

週の労働時間が短い登録ヘルパーなどが、指針でいう「常時従事する労働者」に当たるかどうかは、この記事では確認していません。対象者の範囲や実施の方法は、労働基準監督署や都道府県労働局に確認してください。

労災保険の入口:適用事業と、業務災害・通勤災害

労働者災害補償保険法の第3条第1項は、労働者を使用する事業を適用事業とすると定めています。第7条第1項は、保険給付に、業務上の負傷、疾病、障害または死亡に関する保険給付(業務災害)と、通勤による負傷等に関する保険給付(通勤災害)が含まれると定めています。

第7条第2項は、通勤を、住居と就業の場所との間の往復や、厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動などを、合理的な経路と方法で行うことと定めています。個別の腰痛や事故が業務災害や通勤災害に当たるかは、労働基準監督署が判断します。この記事は、その判断をするものではありません。

労災が起きたときの利用者への連絡、事業所での記録、賠償責任の扱いは、訪問介護の事故発生時の対応(基準第37条)で整理しています。

事業所で決めておくことの順番

以下の順番は指針の優先順位ではなく、この記事の編集上の整理です。

最初に、事業所で行う介助の種類を洗い出し、利用者の状態ごとに腰への負担が高い作業を整理します。そのうえで、負担が高い作業から、福祉用具の導入、介助方法の見直し、2人で訪問する体制の検討を進めます。2人で訪問するときの算定は訪問介護の2人の訪問介護員等による訪問の要件で確認します。

次に、新しく配置する訪問介護員に対する労働衛生教育と、腰痛の健康診断の実施時期と担当者を決めます。そして、勤務体制や研修の機会の確保と合わせて、年間の計画に組み込みます。勤務体制と研修の定めは訪問介護の勤務体制の確保等(基準第30条)で扱っています。

この記事は、厚生労働省の指針と労災保険法の条文で確認できた範囲の整理です。個別の事業所の対応が適切か、労災に当たるかを判断するものではなく、最終的には労働基準監督署や指定権者などに確認してください。

実行チェックリスト

次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。

  1. 訪問介護員が行う移乗、入浴、排泄、おむつ交換などの介助を洗い出し、利用者の状態と自宅の環境(ベッドの高さ、スペース、福祉用具の有無)ごとに、腰への負担の高い作業を整理する
  2. 整理した作業ごとに、リスクを高い・中程度・低いで見積もり、負担が高い作業から、福祉用具の導入、介助方法の見直し、2人での訪問などの対策を決める
  3. 新しく採用した訪問介護員の配置時と、その後の定期の機会に、腰痛予防の労働衛生教育と腰痛の健康診断を行う計画を、実施時期と担当者つきで決める
  4. 利用者や家族に腰痛予防のための環境の整備や福祉用具の使用への理解を得る説明の方法を、事業所の運用として決め、作業標準を利用者の状態が変わるたびに見直す日を決める

一次資料

制度の確認に使用した公的一次資料です。個別地域の運用は指定権者で確認してください。

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