運営 / 更新 2026-10-08
訪問介護員の利用者の金銭・通帳の取扱い:預かりの原則と買い物代行・日常生活自立支援事業
訪問介護員が利用者の現金や通帳を扱う場面は、買い物代行の釣り銭から、家族に頼めない利用料の支払いまで広くあります。この記事で本文を確認した兵庫県の通知(平成16年)は、訪問介護員等が利用者の金銭管理に直接関わることは適切でないとし、福岡市の通知(平成26年)は、通帳や印鑑の預かりと金銭の出納管理は原則として利用者または家族等が行うとしています。どちらも自治体の通知で、全国共通の条文ではありません。この記事は、その2つの通知と国の資料から、預かりの原則、買い物代行で現金を預かる手順、事業所が預り金を管理せざるを得ないときの管理方法、相談の受け皿を整理します。保険内で買い物代行ができる範囲は訪問介護のサービス範囲の線引きで扱います。
この記事で決めること
訪問介護の現場で利用者の現金・通帳・印鑑を預かってよいか迷う事業者が、自治体の通知で示された原則、買い物代行で現金を預かるときの手順、事業所が預り金を管理せざるを得ないときの管理方法、相談の受け皿(日常生活自立支援事業・成年後見制度)を整理するための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、利用者の金銭・通帳の取扱いルールと買い物代行の記録様式を作成できる状態を目指します。
自治体の通知で示された原則:利用者の金銭管理は利用者・家族が行う
兵庫県健康生活部福祉局長寿社会課が指定訪問介護事業所の管理者に宛てた通知(平成16年2月9日付)は、「金銭預かりの禁止」を挙げています。訪問介護員等が利用者の金銭管理に直接的な関わりをもつことは、予期せぬトラブルを引き起こしかねず適切でないという内容です。通知の背景には、訪問介護員が利用者のキャッシュカードを使って現金を盗んだ事件や、サービス中に財布から現金を盗んだ疑いで逮捕された事件があります。
福岡市の通知(平成26年9月2日付)も、利用者の通帳や印鑑の預かり、金銭の出納管理等は、原則として利用者または家族等が行うものだとしています。この通知は、市内のグループホームで入居者の預り金の一部が使途不明になった事案を受けたもので、宛先は介護保険事業者と高齢者施設等の事業者です。訪問介護だけを対象にした通知ではありませんが、預り金の考え方は同じです。
この2つは自治体の通知で、国の法令に預かりを禁じる条文があるかどうかは、この記事では確認していません。通知の内容は、事業所のある自治体の指導監査の窓口や集団指導の資料で同じ考え方が示されているかを確認してから、事業所のルールに反映します。
買い物代行で現金を預かるときの手順(兵庫県の通知)
生活援助の買い物代行では、購入のために現金を預かる場面があります。兵庫県の通知は、金銭を預かる場合の注意点として、次の手順を挙げています。通知の本文に書かれた手順を表にまとめます。
管理者とサービス提供責任者には、訪問介護記録に買い物代行の預かり金、購入商品、金額等が記録され、サービスが適正に提供されているかを定期的に確認することが求められています。記録を書くだけでなく、見る担当を決めておく必要があります。
| 場面 | 通知が示す内容 |
|---|---|
| 預かるとき | 利用者または家族が金額を確認したうえで預かる |
| 商品とお釣りを渡すとき | レシートや領収書を一緒に渡して確認を得る |
| 記録帳 | 預かり金、購入商品、お釣りを記載し、レシートや領収書を貼り付けた記録帳を作り、利用者または家族が保管する |
| 訪問介護記録 | 預かり金、購入商品、金額等を記録する |
| 事業所の確認 | 管理者とサービス提供責任者が、記録が適正かを定期的に確認する |
事業所が預り金を管理せざるを得ない場合に求められる管理(福岡市の通知)
福岡市の通知は、やむを得ない場合に、利用者または家族等の依頼で事業所が預り金等を管理するときの管理方法を別紙で示しています。通知は、身体上、精神上その他の理由でやむを得ない場合の取扱いを示すもので、事業所が預り金の管理を引き受けることを推奨するものではないと書いています。
別紙が挙げる内容は、利用者または家族等から文書で同意を得ること、実務を担当する出納取扱者と確認する出納管理責任者を別に定めること、預り金等を施錠できる金庫に保管し通帳と印鑑は別々の職員が保管すること、利用者ごとの金銭出納帳をつけることなどです。支払いは利用者または家族等の依頼に基づいて行い、領収書等を保管します。バス代のように領収書が出ないものは、出納管理責任者が支払証明書等を作ります。
定期的な家族等への報告、申出があったときの速やかな返却、完結の日から5年間の出納帳等の保存も別紙に書かれています。これは福岡市が指導する内容で、事業所のある自治体の保存期間や様式は別に確認が必要です。通知は事業所として規程を定めて管理する場合の方法を示すもので、訪問介護員が個人で預かる場合については記載していません。
相談を受けたときの受け皿:日常生活自立支援事業と成年後見制度
兵庫県の通知は、高齢者等からサービス利用に係る相談を受けたときは、成年後見制度や地域福祉権利擁護事業の活用を働きかけるとしています。地域福祉権利擁護事業は、平成19年度から日常生活自立支援事業という名称です。
厚生労働省の平成19年の資料によると、日常生活自立支援事業の実施主体は都道府県社会福祉協議会または指定都市社会福祉協議会で、事業の一部を市区町村社会福祉協議会等に委託できます。対象者は、判断能力が不十分で、事業の契約の内容を判断し得る能力があると認められる人です。援助内容には、福祉サービスの利用援助と、預金の払い戻しや預け入れの手続き等の日常的金銭管理が含まれます。
鳥取県の案内ページでは、市町村社会福祉協議会と利用者が契約を結び、支援計画に基づいて生活支援員が援助するとされています。日常的金銭管理サービスは年金の受領手続きや公共料金等の支払い手続きで、通帳や印鑑は書類等預りサービスの対象です。利用料や対象の細部は都道府県や市町村の社会福祉協議会によって異なる可能性があるため、利用者に案内するときは、お住まいの地域の社会福祉協議会に確認するよう伝えます。
事業所で決めておくことの順番
最初に、事業所のある都道府県や市区町村の指導監査の窓口、集団指導の資料で、金銭や通帳の預かりに関する通知や指導の有無を確認します。通知があれば、その内容を事業所のルールの土台にします。
次に、訪問介護員が通帳、印鑑、キャッシュカードを預からないことを決め、買い物代行で現金を預かる手順(金額の確認、レシートや領収書の交付、記録帳、訪問介護記録)と、管理者とサービス提供責任者が記録を確認する担当と頻度を決めます。利用契約や重要事項の説明にもこのルールを入れて、利用者と家族に伝えます。契約の流れは訪問介護の利用契約・重要事項説明・記録の流れで整理しています。
利用者や家族から金銭管理の相談があったときは、居宅介護支援事業所のケアマネジャーや市区町村の窓口に伝えたうえで、日常生活自立支援事業や成年後見制度を案内します。万一、金銭の紛失や盗難が疑われる事態になった場合の事故報告と賠償は、訪問介護の事故発生時の対応(基準第37条)と訪問介護の損害賠償と賠償責任保険の補償範囲で扱います。
この記事は、自治体の通知と国の資料で確認できた範囲の整理です。個別の利用者への対応が適切か、事業所の規程が基準に適合しているかを判断するものではなく、最終的には指定権者に確認してください。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- 事業所が所在する都道府県・市区町村の指導監査課や集団指導の資料で、利用者の金銭・通帳の預かりについての通知や指導の有無を確認する
- 訪問介護員が利用者の通帳・印鑑・キャッシュカードを預からないことを事業所のルールとして決め、利用者や家族から相談されたときの案内先(居宅介護支援事業所、市区町村の窓口、社会福祉協議会)を決める
- 買い物代行で現金を預かる場合の手順を決める。預かる金額を利用者か家族が確認すること、商品とお釣りをレシートや領収書とともに渡すこと、預かり金・購入商品・お釣りを書く記録帳を用意し利用者側で保管することを入れ、訪問介護記録にも同じ内容を残す
- 管理者とサービス提供責任者が訪問介護記録と記録帳を定期的に見合わせる担当と頻度を決め、利用契約や重要事項説明書の説明にこのルールを入れる
一次資料
制度の確認に使用した公的一次資料です。個別地域の運用は指定権者で確認してください。
- 兵庫県健康生活部福祉局長寿社会課「指定訪問介護事業所の適正な運営について(通知)長第1658号 平成16年2月9日」(確認日 2026-10-08)
- 福岡市保健福祉局高齢社会部高齢者サービス支援課「利用者の預り金等の適正な取扱いについて(通知)保高第781号 平成26年9月2日」(確認日 2026-10-08)
- 厚生労働省社会・援護局地域福祉課「福祉サービス利用援助事業について(資料4・平成19年11月)」(確認日 2026-10-08)
- 鳥取県「日常生活自立支援事業(県の案内ページ)」(確認日 2026-10-08)