運営 / 更新 2026-10-17

利用者の悪質商法に気づいたとき:高齢者虐待防止法第27条と消費者ホットライン188

訪問介護員は、利用者の家で、訪問販売の契約書や不審な請求書、通帳の異変に気づくことがあります。家族による財産の使い込みは高齢者虐待防止法の「経済的虐待」として市町村への通報の対象ですが、家族でも事業所の職員でもない第三者の悪質商法は、同じ法律の第27条が「財産上の不当取引」として別に扱い、市町村が相談に応じて消費生活の担当部局などを紹介すると定めています。この記事は、この線引きと、消費者ホットライン188などの連絡先、利用者の情報を伝えるときの守秘義務との関係を、法令と公的機関の案内で整理します。

事務机に置かれたノートパソコンと書類・手帳の写真

家族の使い込みは「経済的虐待」、第三者の悪質商法は「財産上の不当取引」

高齢者虐待防止法第2条第4項第2号は、養護者または高齢者の親族が高齢者の財産を不当に処分することなど、不当に財産上の利益を得ることを、養護者による高齢者虐待の一つに数えています。これを発見した人には、第7条が市町村への通報を求めています。高齢者の生命または身体に重大な危険が生じている場合は通報しなければならず、それ以外の場合は通報するよう努めなければならない、という二段構えです。

一方、第27条は、養護者、高齢者の親族、養介護施設従事者等以外の者が、不当に財産上の利益を得る目的で高齢者と行う取引を「財産上の不当取引」と呼びます。訪問販売の高額な契約や、点検商法のような悪質商法が、この典型です。第27条は、市町村が、この取引による高齢者の被害について相談に応じ、消費生活に関する業務を担当する部局などの関係機関を紹介するものと定めています。

発見した人に通報を義務づける文言は、第27条にはありません。なお、第27条は相談の実施を高齢者虐待対応協力者に委託できることと、被害を受けた、または受けるおそれのある高齢者について、市町村長が老人福祉法第32条の審判請求を適切に行うこと(第2項)も定めています。この記事は、第1項の相談と紹介を中心に扱います。

条文の区分は、「家族」「事業所の職員」より広い言葉で書かれています。この法律の養護者(第2条第2項)は高齢者を現に養護する人で、親族とは限りません。

第27条が除く「養介護施設従事者等」には、他の事業所や施設の従事者も含まれます。以下は、読みやすさのために「家族・親族」「事業所の職員」と言い換えており、迷うときは市町村に確認してください。

このため、利用者の財産に関わる異変を見つけたら、まず誰が財産を動かしているのかで、行き先が分かれます。家族や親族なら虐待の通報、それ以外の第三者なら不当取引の相談です。誰の仕業か分からないうちは、事実を記録して管理者に伝え、市町村の高齢者担当の窓口に相談するのが安全です(運用の提案)。

家族の使い込みを含む通報義務と通報者の保護は、高齢者虐待の通報義務:市町村への通報と通報者の保護で読めます。この記事は、第三者による被害の相談を中心に扱います。

利用者の財産に関わる異変:誰が関わっているかで分かれる行き先
状況根拠となる条文行き先義務の強さ
家族・親族が利用者の財産を不当に処分している高齢者虐待防止法 第2条第4項第2号・第7条市町村生命・身体に重大な危険があるときは通報義務、それ以外は通報の努力義務
同じ事業所の職員が利用者の財産を不当に処分している高齢者虐待防止法 第2条第5項・第21条第1項市町村通報義務(自分の事業所の従事者による虐待を発見したとき)
訪問販売業者など第三者が不当な取引をしている高齢者虐待防止法 第27条市町村の相談窓口、消費生活センター発見した人への通報義務の文言はなく、市町村が相談に応じて関係機関を紹介する

この記事で決めること

訪問介護事業所の管理者・訪問介護員が、利用者の訪問販売などによる消費者被害の疑いに気づいたとき、家族の使い込み(虐待の通報)と第三者の不当取引(第27条の相談)のどちらかを見分け、守秘義務に配慮して市町村や消費生活センターへつなぐ手順を決めるための考え方と確認順を整理します。

読み終えたら、利用者の財産に関わる異変の記録票(日時・場所・見た事実・利用者の発言・関わっている人の区分・同意の有無・伝えた先と日付)を作成できる状態を目指します。

利用者の情報を伝えるときの守秘義務との関係

運営基準第33条第1項は、訪問介護事業所の従業者が、正当な理由がなく、業務上知り得た利用者またはその家族の秘密を漏らしてはならないと定めています。消費者被害に気づいても、利用者の情報を、本人に黙って外部へ伝えてよいとは限りません。

高齢者虐待防止法第7条第3項は、刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第7条第1項・第2項の通報をすることを妨げるものと解釈してはならないと定めています。この定めは、養護者による虐待の通報について置かれたもので、第27条の相談には同じ文言がありません。第三者の悪質商法を相談する場面では、この条文を根拠に守秘義務が外れると読むことはできません。

個人情報保護法第27条第1項は、個人データを第三者へ提供するには、あらかじめ本人の同意を得るのを原則とし、例外の一つとして、人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるときを挙げています。本人と話ができるのであれば、まず本人に「消費生活センターに相談してよいか」を尋ね、同意を得てから伝えるのが基本です(運用の提案)。

同意を得るのが難しい事情があるときに、この例外に当たるかどうかは、個別の事情で判断が分かれるため、市町村や指定権者に確認してください。個人情報保護法第27条第1項には、法令に基づく場合(第1号)や、国や地方公共団体の法令の定める事務に協力する必要があり、同意を得ると事務の遂行に支障を及ぼすおそれがある場合(第4号)などの例外もあり、どれに当たるかも個別の確認事項です。

利用者の秘密を守る義務と同意の取り方は、訪問介護の秘密保持等(基準第33条):守秘義務と個人情報の同意で読めます。成年後見人等がいる利用者の場合は、訪問介護の利用者に成年後見人等がいるときの契約・説明・同意:運営基準の定めと確認する書類で、誰の同意を得るかを確かめてください。

連絡先:消費者ホットライン188・市町村・消費者安全確保地域協議会

国民生活センターの案内によると、消費者ホットライン(全国統一番号は188)は、誰もがアクセスしやすい相談窓口として開設されたものです。IP電話など一部の電話からはつながらず、通話料は利用する電話会社のサービスによって異なると案内されています。土日祝日に都道府県等の消費生活センター等が開所していない場合は、国民生活センターに電話がつながります(一部地域や年末年始などを除く)。

相談を受け付けるときには、円滑な相談処理のため、氏名、住所、電話番号、性別、年齢、職業を聞かれるとされています。利用者の代わりに事業所の職員が電話をする場合も、何を聞かれるかを先に知っておくと、利用者の同意を得る場面で説明しやすくなります(運用の提案)。

市町村への相談は、第27条が市町村の役割として定めているもので、窓口は市町村によって異なります。高齢者担当の課や地域包括支援センターなど、どの窓口が受け付けるかは市町村ごとに確認してください。

担当のケアマネジャーがいる利用者は、ケアマネジャーにも状況を共有すると、地域の関係機関につなぎやすくなります。ケアマネジャーとの連絡の整え方は、訪問介護のサービス提供・ケアマネ連携・月次報告で読めます。

消費者安全法第11条の3は、消費者の利益の擁護や増進に関わる国や地方公共団体の機関が、消費者安全確保地域協議会を組織できると定めています。協議会は、必要な情報を交換し、構成員は、消費生活上特に配慮を要する消費者と適当な接触を保って状況を見守る取組を行います(第11条の4)。

協議会の事務に従事する人には、知り得た秘密を漏らしてはならない秘密保持義務があります(第11条の5)。協議会は「組織することができる」とされているため、利用者の住む地域に協議会があるか、介護事業者が構成員に入っているかは、市町村や消費生活センターに確認してください。

事業所での記録と共有の手順

気づいた時点で、いつ、どこで、何を見たかを、見たままの事実で記録します。契約書や請求書の内容を写真に撮る必要があるかどうかは、利用者の同意と事業所の個人情報の取扱いの定めに従います。推測や、業者への評価は書かず、利用者の言葉は発言どおりに残します(運用の提案)。

訪問介護員は、現場で業者を問いただしたり、契約の解除を利用者に代わって進めたりせず、管理者への報告を先にします。契約の取消しや解約の可否は、消費生活センターなどの専門の相談員が、個別の契約内容を聞いて助言する事項で、事業所が判断するものではありません。

管理者は、利用者の同意の有無を確かめたうえで、市町村、消費生活センター、担当のケアマネジャーのうち、どこへ、何を伝えたかを記録に残します。同意が得られない場合や、本人が判断できない状態にある場合の対応は、個別の事情で変わるため、市町村の高齢者担当の窓口に確認します。この記事は、個別の契約が悪質商法に当たるかどうか、解約できるかどうかを判断するものではありません。

次に読む記事

利用者の虐待を発見したときの通報の義務と通報者の保護は、高齢者虐待の通報義務:市町村への通報と通報者の保護で読めます。

個人情報を外部へ伝えるときの同意の取り方は、訪問介護の秘密保持等(基準第33条):守秘義務と個人情報の同意で読めます。

判断能力が十分でない利用者への契約と同意の確認は、訪問介護の利用者に成年後見人等がいるときの契約・説明・同意:運営基準の定めと確認する書類で読めます。

実行チェックリスト

次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。

  1. 訪問中に不審な契約書・請求書・来訪者に気づいたら、見たままの事実と利用者の発言を記録し、その場で業者を問いただしたり契約の判断をしたりせず、管理者へ報告する
  2. 管理者は、財産を動かしているのが家族・親族か、事業所の職員か、それ以外の第三者かを記録から分け、家族や職員なら虐待の通報、第三者なら市町村の相談窓口か消費者ホットライン188への相談とする
  3. 利用者と話ができるときは、相談先へ伝えてよいかを先に尋ねて同意を得て、同意を得るのが難しい事情があるときは、市町村の高齢者担当の窓口に伝え方を確認する
  4. 市町村・消費生活センター・担当のケアマネジャーのうち、どこへ何を伝えたか、返ってきた助言を記録票に残し、次回の訪問で利用者の状況を見守る

一次資料

個別地域の運用は指定権者で確認してください。

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