運営 / 更新 2026-10-17
訪問介護の指定取消しまでの手続:勧告・命令・公表と、聴聞・弁明の機会の順番
指定取消しや効力停止は、いきなり決まる処分とは限りません。介護保険法は、報告徴収や立入検査、期限つきの勧告、命令と公示を置き、行政手続法は、処分の前に聴聞または弁明の機会の付与を求めています。条文から、手続の順番と、各段階で届く文書の見分け方を確認できます。
結論:調査・勧告・命令・取消しは別々の条文に置かれ、処分前の意見陳述も定められている
指定取消しの前には、調べる、勧告する、命令する、という段階が条文に置かれています。介護保険法第76条は、都道府県知事または市町村長が、居宅介護サービス費の支給に関して必要があると認めるときに、報告や帳簿書類の提出・提示を命じ、出頭を求め、質問し、事業所へ立ち入って検査できると定めています。
第76条の2は、人員の基準や運営基準を満たしていないなどの場合に、期限を定めて措置をとるよう勧告でき、従わないときは命令できると定めています。第77条は、指定を取り消し、または期間を定めて効力の全部もしくは一部を停止できる場合を定めています。
さらに行政手続法第13条は、行政庁が不利益処分をしようとするときは、処分を受ける者の意見を聴く手続として、聴聞または弁明の機会の付与を執るよう定めています。つまり、事業者には、処分が決まる前に書面で通知を受け、意見を述べる場面が条文上用意されています。
ただし、これは手続の一般的な道筋の説明です。個別の事業所が勧告や取消しの対象になるか、どの手続が執られるかは、指定権者が事実を確認して判断します。この記事は、その見込みを判定するものではありません。
この記事で決めること
訪問介護事業所が指定取消し・効力停止を受けるまでに、介護保険法と行政手続法の条文上どのような手続(報告徴収・勧告・命令・公表・聴聞または弁明の機会・公示)が置かれているかを、順番と各段階で事業者がとれる対応から確認するための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、行政からの通知への対応手順メモ(通知の種類の見分け方、期限の控え、提出・出頭の担当、記録の保管先)を作成できる状態を目指します。
手続の順番:各段階で何が起きるか
次の表は、条文に書かれた順に段階を並べたものです。第77条は、取消し・効力停止の事由に当たれば処分できると定めており、勧告や命令を経ることを要件としては書いていません。そのため、表の段階は、必ずこの順に一つずつ進むという意味ではありません。
| 段階 | 条文 | 条文に書かれている内容 |
|---|---|---|
| 報告・検査 | 介護保険法第76条第1項 | 居宅介護サービス費の支給に関して必要があると認めるとき、都道府県知事または市町村長が、報告や帳簿書類の提出・提示の命令、出頭の求め、質問、事業所への立入検査をできる |
| 勧告 | 介護保険法第76条の2第1項 | 条件に従わない、人員の基準・員数を満たしていない、運営基準に従った適正な運営をしていない、便宜の提供を適正に行っていない、のいずれかのとき、期限を定めて措置をとるよう勧告できる |
| 公表 | 介護保険法第76条の2第2項 | 勧告を受けた事業者が期限内に従わなかったとき、その旨を公表できる |
| 命令・公示 | 介護保険法第76条の2第3項・第4項 | 正当な理由なく勧告に係る措置をとらなかったとき、期限を定めて命令できる。命令をしたときは公示しなければならない |
| 意見陳述 | 行政手続法第13条第1項 | 許認可等を取り消す不利益処分は聴聞、それ以外で聴聞の類型に当たらないときは弁明の機会の付与(命令も不利益処分にあたり得るため対象になり得る。勧告は行政指導で対象外) |
| 取消し・効力停止 | 介護保険法第77条第1項 | 取消し、または期間を定めた指定の全部もしくは一部の効力の停止ができる事由を13号に列挙 |
| 公示 | 介護保険法第78条第1項第3号 | 指定を取り消し、または効力を停止したときは、事業所の名称や所在地などを公示しなければならない |
勧告の対象になる4つの場面と、命令・公表の意味
第76条の2第1項が勧告の対象とするのは、4つの場面です。指定を行うときに付された条件に従わない場合、事業所の従業者の知識・技能や人員が条例で定める基準・員数を満たしていない場合、運営基準に従った適正な運営をしていない場合、そして、事業の廃止・休止の届出をしたときに、引き続きサービスを希望する利用者へ、ほかの事業者などとの連絡調整といった便宜の提供(第74条第5項)を適正に行っていない場合です。人員が基準を割ったときの届出と対応は訪問介護の人員基準割れ(欠員)時の変更届出・指定取消しリスクで確認できます。
勧告には期限が付き、期限内に従わないと、その旨が公表される場合があります。勧告を受けても正当な理由なく措置をとらないと、期限を定めた命令の対象になり、命令が出ると公示されます。
勧告に従わなかったことは、命令の要件になります。措置を期限内にとれば、命令の要件には当たりません。
一方、取消しや効力停止は第77条の事由で別に判断されるため、勧告に従えば処分されないとまでは、条文から言えません。なお、条文は「勧告できる」「命令できる」と書いており、どの場合に勧告が出るかは指定権者の判断です。
勧告や命令の通知を受けたときは、どの基準について、どの措置を、いつまでにとるよう求められているかを、通知書の文言のまま記録することが出発点です。是正の内容と日付を時系列で残しておくと、期限内に措置をとったことを説明しやすくなります。
取消しの前に置かれる意見陳述:聴聞と弁明の機会
行政手続法第13条第1項は、許認可等を取り消す不利益処分をしようとするときは聴聞を執ると定めています。指定の取消しはこれに当たるため、条文の区分では聴聞です。
期間を定めて指定の効力を停止する処分は、聴聞を執る類型(許認可等の取消し、資格・地位の直接のはく奪、役員の解任命令など)に当たらなければ、弁明の機会の付与とされます。ただし、聴聞の類型に当たらない場合でも、行政庁が相当と認めるときは聴聞を執れるとされています。
どちらの手続になるかは、事業者に届く通知書の題名で確認します。
聴聞では、行政庁が、聴聞の期日までに相当な期間をおいて、予定される処分の内容と根拠条項、処分の原因となる事実、聴聞の期日と場所、担当組織の名称と所在地を書面で通知します(第15条)。通知には、期日に出頭して意見を述べ、証拠書類を提出できること、出頭に代えて陳述書と証拠書類を提出できること、聴聞が終わるまで処分の原因事実を示す資料の閲覧を求められることが、あわせて示されます。
弁明の機会の付与は、原則として書面(弁明書)で行います(第29条)。通知には、予定される処分の内容と根拠条項、原因となる事実、弁明書の提出先と提出期限が書かれます(第30条)。どちらの手続でも、通知に書かれた期限と期日が、事業者が意見を述べられる機会です。
なお、公益上緊急に処分をする必要があり、意見陳述の手続を執れないときなどは、この手続を適用しないと第13条第2項が定めています。したがって、条文を読んで、聴聞が必ず先に行われると決めつけることはできません。
処分後:公示と、市町村の関わり
指定を取り消し、または効力を停止したときは、都道府県知事が、事業所の名称や所在地などを公示します(介護保険法第78条第1項第3号)。命令の段階でも公示がされるため、公示は処分後だけの手続ではありません。
市町村は、保険給付に係る指定居宅サービスを行った事業者について、勧告や取消しの事由に当たると認めるときは、事業所の所在地の都道府県知事に通知しなければならないとされています(第76条の2第5項、第77条第2項)。指定権者が都道府県知事ではなく市の長になる場合の窓口は、政令指定都市・中核市での訪問介護の指定申請:都道府県申請との違い(申請先・窓口・事前相談)の整理で確認してください。
取消しを受けた場合に、新たに指定を受けられなくなる期間があることは訪問介護の指定申請における欠格事由で確認できます。
通知が届く前から届いたあとまで:この記事と他の記事の使い分け
処分に至る前後の記事は次のとおり分かれています。通常の運営指導に備える資料は訪問介護の運営指導(実地指導)で確認される記録・書類、運営指導が監査へ切り替わる契機と返還は訪問介護の運営指導から監査への切替と行政処分・返還、不正請求の徴収金は訪問介護の報酬返還:不正請求の徴収金(100分の40の上乗せ)と過誤調整の違いで確認できます。
この記事は、介護保険法と行政手続法の条文から手続の順番を整理したものです。個別の事業所に対する勧告・命令・取消しの可否、聴聞や弁明で述べる内容、処分に対する不服申立ては扱いません。実際に通知を受けたときは、通知書に書かれた指定権者の窓口に確認し、必要に応じて弁護士や行政書士などの専門家に相談してください。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- 行政から届く文書を、報告・帳簿書類の提出命令、出頭の求め、勧告、命令、聴聞の通知、弁明の機会の付与の通知のどれかに分け、受け取った日と文書の宛先を記録する
- 文書に書かれた期限(提出期限、勧告・命令に係る措置の期限、聴聞の期日、弁明書の提出期限)を一覧にし、期限に間に合わせる担当者を決める
- 勧告・命令の対象とされた基準(人員、運営、条件)について、事実関係と是正の状況を時系列の記録として残し、通知書に書かれた原因となる事実と突き合わせる
- 聴聞または弁明の機会の通知を受けたら、書面で述べる内容と添付する証拠書類の範囲を決め、資料の閲覧を求められることも踏まえ、必要に応じて専門家へ相談する窓口を決めておく
一次資料
個別地域の運用は指定権者で確認してください。