運営 / 更新 2026-10-20

訪問介護事業所の賃金のデジタル払い:労使協定・本人の同意・指定資金移動業者の条件

賃金のデジタル払いは、労働者が同意し、事業場で労使協定を結んだときに限って、厚生労働大臣が指定した資金移動業者(指定資金移動業者)の口座へ賃金を支払える方法です(労働基準法施行規則第7条の2第1項第3号)。訪問介護事業所が始めるときは、労使協定、労働者への説明と同意、口座の特定、支払日の指図期限の確認の順に進めます。厚生労働省のガイドライン(令和5年3月8日)と条文で、事業所がすることを確かめました。

事務机に置かれたノートパソコンと書類・手帳の写真

賃金のデジタル払いとは:口座振込と並ぶ、同意が前提の支払方法

労働基準法施行規則第7条の2第1項は、使用者は労働者の同意を得た場合に、賃金を次の方法で支払えると定めています。労働者が指定する金融機関の預金口座への振込み、金融商品取引業者の証券総合口座への払込み、そして指定資金移動業者のうち労働者が指定するものの第二種資金移動業に係る口座への資金移動です。3つ目がデジタル払いです。

厚生労働省のガイドラインは、この改正を、賃金の支払方法に新しい選択肢を加え、労働者と使用者の双方が希望する場合に限って使えるものと説明しています。希望しない労働者や使用者に強制するものではない、とも書いています。通貨で全額を払うという原則とその例外は、賃金の支払い方:5原則と、口座振込・天引きの条件で確認できます。

この記事で決めること

訪問介護事業所の経営者や給与担当者が、ヘルパーの賃金を資金移動業者のスマートフォン決済口座などへ支払う「賃金のデジタル払い」を始められるか、始めるなら労使協定、労働者への説明と同意、口座の指定、支払日の指図期限、指定が取り消されたときの対応をどう進めるかを、労働基準法施行規則第7条の2と厚生労働省のガイドラインで確かめたい。ための考え方と確認順を整理します。

読み終えたら、賃金のデジタル払いの導入記録(労使協定の締結日と4事項・取扱指定資金移動業者・労働者ごとの同意書・指図期限の確認)を作成できる状態を目指します。

指定資金移動業者に求められる要件

どの資金移動業者でも使えるわけではありません。施行規則第7条の2第1項第3号のイからチまでの要件を満たすとして、厚生労働大臣の指定を受けた業者に限られます。条文は、指定を受けた者のうち労働者が指定するものの口座への資金移動と定めているため、取り扱う業者が指定を受けた業者かどうかは、事業所が事前に確かめておく点になります。

次の表は、条文のイからヘまでの要件を短くまとめたものです。労働者に口座を使ってもらうときの説明の元になります。

労働基準法施行規則第7条の2第1項第3号の主な要件
要件条文の内容
口座の債務額(イ)労働者に負う債務の額が100万円を超えないための措置、または超えた場合に速やかに100万円以下にする措置を講じていること
破綻時の保証(ロ)破産手続開始の申立てなどで債務の履行が困難になったとき、口座の債務の全額を速やかに労働者へ弁済する保証の仕組みを持つこと
不正取引の補償(ハ)労働者の意に反する不正な取引など、労働者の責めに帰せない理由で損失が生じたときに補償する仕組みを持つこと
長期の履行(ニ)特段の事情がない限り、最後の資金移動の日から少なくとも10年は債務を履行できる措置を講じていること
1円単位の資金移動(ホ)口座への資金移動が1円単位でできること
通貨での受取(ヘ)現金自動支払機などで1円単位の受取ができ、少なくとも毎月1回は手数料などの費用なしで受取ができること

始めるまでの手順:労使協定と選択肢の提示

ガイドラインによると、指定資金移動業者の口座へ賃金を支払うには、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者と、協定を結ぶ必要があります。協定に書くのは、対象となる労働者の範囲、対象となる賃金の範囲と金額、取扱指定資金移動業者の範囲、実施開始時期の4つです。

労働者に同意を求めるときは、預貯金口座への振込みや証券総合口座への払込みも選べるように示したうえで、同意するかどうかを選んでもらいます。ガイドラインは、取り扱う金融機関や指定資金移動業者を1行・1社に限らず、複数にするなど労働者の便宜に配慮して定めるよう求めています。労使協定の過半数代表者の選び方は、就業規則と36協定の記事の考え方が参考になります。

労働者に説明する5点と、同意の取り方

デジタル払いを希望する労働者には、ガイドラインの同意書の様式例(別紙様式第14号)を使うなどして、必要な事項を説明したうえで同意を得ます。ガイドラインが挙げる説明の内容は、次の表の5点を含みます。

説明は指定資金移動業者に委託できますが、同意は使用者自身が得る必要があります。委託された業者が説明をしなかった場合は、規則に基づく説明が行われたとは認められません。

同意を得るときは、労働者が指定する口座を特定する情報も一緒に受け取ります。名義人と口座番号(アカウントID)のほかに電話番号などが要る業者もあり、業者ごとに違うため、厚生労働省が公表する一覧で確認します。

ガイドラインが挙げる、労働者への説明の内容
説明することガイドラインの内容
預金ではないこと・希望額の設定資金移動業者は預金等を受け入れていない。希望する賃金の範囲と金額は、口座残高の上限額(100万円以下)と、業者が1日の払出上限を設けている場合はその額以下にする
破綻時の弁済業者の破綻時などは、保証機関から労働者へ口座残高の弁済が行われる
不正出金の補償労働者の意思に反する不正な出金は、労働者に過失がなければ損失額の全額が補償される。通知の期間を要件にする場合は損失発生日から30日以上
払出しの方法ATMや預貯金口座への出金など、通貨で受け取れる方法で、少なくとも毎月1回は手数料負担なしで払い出せる
残高の履行期間口座の資金移動が最後にあった日から少なくとも10年は債務を履行できる

毎月の支払いと、指定が取り消されたとき

ガイドラインは、労働者の口座に資金移動された賃金が、所定の賃金支払日の午前10時頃までに利用できる状態になっていること、その日のうちに全額を払い出せる状態になっていることを求めています。何時までに指図すればよいかは業者ごとに異なるため、使用者はあらかじめ指図の期限を確認して支払います。資金移動の方法は、労働者の口座に確実に資金移動される方法であれば問わないとされています。

指定が取り消された場合や、業者が指定を辞退した場合は、その口座へ賃金を払っていた使用者が、労働者に速やかに確認します。すでに口座への送金を指図していたなどの特段の事情がなければ、以降の賃金は労働者が指定する別の方法で支払います。デジタル払いを始める事業所は、切り替え先の預貯金口座をあらかじめ聞いておくと、この場面で慌てずに済みます。

事業所で決めておくこと(運用の例)

次の表は、上の決まりに合わせた確認の例で、国が定めた様式ではありません。給与明細に関する決まりは給与明細の交付義務、雇入れ時の労働条件の明示と賃金台帳は雇入れ時の労働条件明示と労働者名簿・賃金台帳で確認します。

賃金のデジタル払いを導入するときの確認事項(事業所の運用の例)
確認すること根拠となる資料
デジタル払いを希望するヘルパーがいるかを確かめ、いなければ導入を急がないガイドライン(希望者に限る)
労使協定に、対象の労働者・賃金の範囲と金額・取扱業者・開始時期の4事項を書くガイドライン第4の1(1)
取扱業者が厚生労働大臣の指定を受けた業者かを確かめ、口座の特定に要る情報は厚生労働省の一覧で確かめる施行規則第7条の2第1項第3号、ガイドライン第4の1(2)エ
同意書で5点を説明し、口座を特定する情報と同意を使用者自身が受け取るガイドライン第4の1(2)
業者ごとの指図期限を確かめ、支払日に午前10時頃までに使える状態にするガイドライン第4の2
指定の取消し・辞退に備えて、振込先の預貯金口座も聞いておくガイドライン第4の3

確かめた資料と確認できていないこと

この記事は、2026年10月20日に、労働基準法施行規則第7条の2(e-Gov法令検索の現行条文)と、厚生労働省労働基準局賃金課の「資金移動業者の口座への賃金支払に関する資金移動業者向けガイドライン」(令和5年3月8日)を読んで書きました。ガイドラインは指定資金移動業者向けの資料ですが、第4に使用者がすることが書かれています。

どの業者が指定を受けているか、業者ごとの手数料や払出しの方法、導入する場合の就業規則の書き方は扱っていません。導入の可否や協定の内容は、事業所の事情で変わるため、労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。

実行チェックリスト

次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。

  1. デジタル払いを導入するかを決め、希望する労働者がいる場合に限って進める。預貯金口座への振込みも選べる状態を維持する
  2. 事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は過半数代表者と、対象となる労働者の範囲・賃金の範囲と金額・取扱指定資金移動業者の範囲・実施開始時期を書いた労使協定を結ぶ
  3. 取り扱う指定資金移動業者を厚生労働省の一覧で確かめ、希望する労働者に口座残高の上限・破綻時の保証・不正出金の補償・毎月1回の無料の払出し・10年の債務履行を説明して、使用者自らが同意書を受け取る
  4. 支払日の午前10時頃に使える状態にするための指図期限を業者ごとに確認し、支払日のカレンダーに書き込む。指定の取消し・辞退の連絡があったら、対象の労働者に確認して別の支払方法へ切り替える

関連ガイドで計画をつなぐ

隣接する判断をつなぎ、記事単体で計画を止めないためのガイドです。

よくある質問

迷いやすい範囲と確認順を、質問ごとに整理します。

訪問介護事業所は、ヘルパーの賃金をデジタル払いにしなければなりませんか?

しなければならないという決まりはありません。厚生労働省のガイドラインは、労働者と使用者の双方が希望する場合に限って支払方法に加える制度で、希望しない労働者や使用者に強制するものではないと書いています。

ヘルパー本人が同意すれば、労使協定は要りませんか?

ガイドラインは、指定資金移動業者の口座へ賃金を支払うとき、労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者との協定を結ぶ必要があると書いています。本人の同意だけでは足りず、協定と同意の両方が前提です。

デジタル払いの口座に入れた賃金は、いくらまで置いておけますか?

労働基準法施行規則第7条の2は、口座の債務の額が100万円を超えないための措置か、超えたときに速やかに100万円以下にする措置を、指定資金移動業者の要件にしています。ガイドラインは、受入上限額を100万円以下に設定するか、超えた分を当日中に本人が指定した預貯金口座などへ送金する方法を挙げています。実際の仕組みは業者ごとに異なるため、業者の案内で確認します。

一次資料

個別地域の運用は指定権者で確認してください。

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