運営 / 更新 2026-10-17

退職間際の訪問介護員の有給消化:時季変更権・買い上げ・退職時の証明・賃金7日以内

辞める訪問介護員が「残りの有給休暇を退職日までに全部使いたい」と申し出たとき、厚生労働省の「確かめよう労働条件」は、退職日をもって年休の権利は消滅するため、使用者は時季変更権を行使できず、取得を認めるほかないと説明しています。法定の年休の買い上げは、和歌山労働局のよくある質問では違法とされています。労働基準法第22条・第23条、厚生労働省の資料、和歌山労働局の質問集をもとに、退職間際の年休の申出への対応と、退職時の証明・賃金の支払いの期限を整理します。

事務机に置かれたノートパソコンと書類・手帳の写真

退職日に年休の権利が消えるため、時季変更権は使えない

労働基準法第39条は、使用者に、年次有給休暇を労働者の請求する時季に与えることを求めています。請求された時季に与えると事業の正常な運営を妨げる場合に限り、他の時季に与えることができます。この「他の時季に与える」権利が時季変更権です。

厚生労働省の「確かめよう労働条件」は、労働者が会社を退職した場合、退職日をもって年休の権利は消滅するとしています。退職間近に残りの年休をすべて使い切って退職したいと申請されたときは、退職をもって年休権が消滅するため、使用者は時季変更権を行使できず、取得を認めるほかないと説明しています。和歌山労働局のよくある質問も、退職間際の年休の申請を拒むことはできないとしています。

年休の付与日数と年5日の時季指定義務の基本は、訪問介護事業所の年次有給休暇:付与日数、年5日の時季指定義務、年次有給休暇管理簿で読めます。この記事は、退職の場面に絞っています。

この記事で決めること

訪問介護事業所の管理者・事業者が、退職する訪問介護員から残りの年次有給休暇を退職日までに使いたいと申し出されたときに、時季変更権が使えない理由、買い上げの扱い、引継ぎのための退職日の延期、退職時の証明と賃金の支払いの期限を確かめ、申出を受けてからの動きを決めるための考え方と確認順を整理します。

読み終えたら、退職者の年休・引継ぎ確認票(残りの日数・取得希望日・引継ぎの日程・証明書の請求の有無・最終賃金の支払い期限)を作成できる状態を目指します。

時季変更権が使える場面と、使えない場面

厚生労働省の資料は、「事業の正常な運営を妨げる」場合の例として、年末など特に業務が忙しい時季を指定された場合や、同じ時期に多数の労働者の年休指定が重なり、全員に付与しにくい場合を挙げています。この判断は、請求した労働者の所属する事業場を基準に、個別的、具体的に、客観的に行うものとされています(昭和23年7月27日基収第2622号)。

同じ資料は判例(弘前電報電話局事件、最高裁昭和62年7月10日)も紹介しており、勤務割を変更して代わりの勤務者を配置できるのに、休暇の目的を理由に配慮をしないまま時季変更権を行使することは許されないとしています。訪問介護でも、訪問の割り当てを組み替えて他のヘルパーが入れるなら、同じ考え方が当てはまると考えられます(運用の提案)。

厚生労働省は、退職日をもって権利が消滅する点を理由に、取得を認めるほかないとしています。

年休の買い上げと、引継ぎのための退職日の延期

和歌山労働局のよくある質問は、年休の目的は日ごろの業務から離れて休むことなので、買い上げる代わりに休めなくなっては意味がないとして、原則として年休を買い上げることはできないとしています。法定の年休の買い上げは違法となる一方、労働基準法を上回る日数を独自に与えている年休の買い上げは、違法とはならないとしています。事業所で独自に与えている日数があるときは、就業規則の定めを確認してから扱います。

引継ぎが必要で退職日を遅らせてほしいときについて、厚生労働省は、退職日を遅らせる打診に応じるかどうかは労働者に委ねられているとしています。和歌山労働局も、退職前の業務の引継ぎなど必要があるときは、退職日を遅らせてもらうなど、退職する労働者と話し合うのがよいとしています。

引継ぎが必要な訪問先がある場合は、退職の申出を受けた時点で、担当する利用者と訪問の予定を一覧にして、本人と相談しながら引継ぎの日程を決めます(運用の提案)。年休の取得日と引継ぎ日を重ねないよう、申出の時に本人と日程を確認します。

退職時の証明(第22条)と賃金の支払い(第23条)

第22条第1項は、労働者が退職の場合に、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金、退職の事由(解雇の場合はその理由を含む)について証明書を請求したときは、使用者は遅滞なく交付しなければならないとしています。第3項は、証明書に労働者の請求しない事項を記入してはならないとしています。第4項は、あらかじめ第三者と謀って労働者の就業を妨げるための通信をすることや、証明書に秘密の記号を記入することを禁じています。

第23条第1項は、労働者の退職の場合に、権利者の請求があったときは、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金など、名称にかかわらず労働者の権利に属する金品を返還しなければならないとしています。第2項は、賃金や金品に争いがあるときは、異議のない部分を第1項の期間中に支払い、または返還しなければならないとしています。

年休を取得した日の賃金は、厚生労働省の資料によると、就業規則などで定めた方法(所定労働時間働いた場合の通常の賃金、平均賃金、労使協定がある場合の標準報酬日額のいずれか)で支払う必要があります(労働基準法第39条)。最後の給与の支払いで、取得した年休の賃金を含め忘れないよう、申出の時に計算方法を確認します(運用の提案)。

辞める訪問介護員から年休の申出があったときの動き(運用の提案を含む)
場面事業所の動き根拠
申出を受けたとき残りの日数を年次有給休暇管理簿で確かめ、本人の希望する取得日を聞く。取得を断らない厚労省「確かめよう労働条件」、和歌山労働局のよくある質問。管理簿の確認は運用の提案
訪問の割り当て取得日の訪問を組み替え、代わりのヘルパーを配置する判例の考え方(弘前電報電話局事件)。組み替えの進め方は運用の提案
引継ぎが必要なとき退職日を遅らせられるかを本人に打診する。応じるかは本人が決める厚労省「確かめよう労働条件」
残りの日数を買い取りたいと言われたとき法定の年休は原則として買い上げない。独自に与えた日数は就業規則を確認する和歌山労働局のよくある質問
退職時の証明の請求請求があれば遅滞なく交付し、本人が請求した事項だけを書く労働基準法第22条
賃金・金品の請求請求があれば7日以内に賃金を支払い、金品を返還する。争いがあれば異議のない部分を先に払う労働基準法第23条

起こりやすい失敗:繁忙を理由に断る、引継ぎを理由に日程を決めてしまう

「人手が足りないから最後の1か月は出勤してほしい」と、年休の取得を断ると、取得を認めるほかないとする厚生労働省の説明と合いません。人手が足りないときは、断るのではなく、本人に引継ぎの協力を相談し、退職日を遅らせられるかを打診します。応じるかどうかは労働者が決めます。

退職日と年休の最終日を事業所が一方的に決めてしまうのも、起こりやすい失敗です。退職日、年休の取得日、引継ぎの日を、書面かメッセージで本人と確認し、記録に残します(運用の提案)。

個別の事案で取得を認めるべきか、買い上げに当たるかが分からないときは、事業場を管轄する労働基準監督署か社会保険労務士に確認してください。この記事は、個別の判断をするものではありません。

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実行チェックリスト

次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。

  1. 退職の申出を受けたら、年次有給休暇管理簿で残りの日数を確かめ、本人が希望する取得日を聞いて確認票に書く
  2. 取得日の訪問予定を組み替えて代わりのヘルパーを配置し、引継ぎが必要な利用者と日程を本人と相談して決め、退職日の延期を打診する場合は応じるかを本人に確認する
  3. 本人から退職時の証明書の請求があれば、遅滞なく、請求された事項だけを書いて交付し、請求日と交付日を記録する
  4. 賃金や金品の請求があれば、請求日から7日以内に年休の賃金を含めて支払い、返還する金品を確認票に残す

一次資料

個別地域の運用は指定権者で確認してください。

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