運営 / 更新 2026-10-21
利用者に疥癬が疑われるとき:訪問介護員の対応と通常疥癬・角化型疥癬の違い
利用者の皮膚に疥癬を疑う所見を見つけたら、訪問介護員が自分で判断せず、責任者へ連絡して皮膚科の診察につなぎます。厚生労働省の「介護現場における感染対策の手引き 第3版」(令和5年9月)は、疥癬の予防には皮膚症状をサービス利用時に見逃さないことが重要だとしています。このページは疑う所見から職員の注意点までを手引きの疥癬の章で確認し、感染症全般の手順は訪問介護の感染対策の手引きで扱っています。
疥癬とは:通常疥癬と角化型疥癬
手引きは、疥癬をダニの一種であるヒゼンダニが皮膚に寄生して起こる皮膚病と説明しています。腹部、胸部、大腿内側などに紅斑、丘疹、鱗屑ができ、激しいかゆみを伴います。直接の接触感染のほか、衣類やリネン類から間接的にうつる例もあるとされています。
病型は通常の疥癬と、その重症型の角化型疥癬(通称ノルウェー疥癬)があります。通常疥癬は肌と肌の接触感染で、潜伏期間は感染して約1〜2か月とされています。角化型疥癬はヒゼンダニの数が桁違いに多く感染力が極めて強いため、人肌の温度が残る布団やシーツの共用や、はがれ落ちた皮膚のかけら(落屑)からも感染するとされています。
角化型疥癬の潜伏期間は4〜5日と非常に短いと書かれています。
ヒゼンダニは皮膚から離れると比較的短時間で死滅し、熱に弱く、50℃・10分間で死滅するとされています。診断はダニの存在を顕微鏡で確かめる検査によるため、見た目だけで疥癬と決めることはできません。
この記事で決めること
訪問介護員やサービス提供責任者が、利用者の皮膚に疥癬を疑う所見を見つけたときに、何を観察し、誰へ連絡し、通常疥癬と角化型疥癬で対応がどう違うかを、厚生労働省の感染対策の手引き第3版の疥癬の章で確認するための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、疥癬が疑われるときの連絡メモ(観察した皮膚所見・かゆみの訴え・連絡先と受診の依頼・接触した職員の確認欄)を作成できる状態を目指します。
疑う皮膚所見と、見逃さないための観察
手引きは、疥癬は早期発見が大切で、次のような所見を見たら疑うとしています。皮膚にかゆみがあり、特に夜間に強くなる傾向があること、赤い乾燥した皮膚の盛り上がりがあること、疥癬トンネルと呼ばれる線状の皮疹が手のひらや指の間に見られることです。男性では、臀部や陰のう部に強いしこりが見られることもあるとされています。
通常疥癬では頭と首を除く全身に症状が出るのに対し、角化型疥癬では頭・首を含むほぼ全身に角質の厚みが出るのが特徴で、手足、おしり、肘、膝で目立つとされています。爪だけに角質の増殖が出る爪疥癬は、水虫と誤診されることもあると手引きは注意しています。
訪問介護員にとっては、身体介護で皮膚に触れる場面が観察の機会になります。手引きは、普段のケアのときに皮膚の観察を忘れないようにすること、他の施設などから移ってきた利用者は特に注意して観察することを挙げています。褥瘡などの皮膚の異常に気づいたときの記録と伝え方は訪問介護員が褥瘡に気づいたときで整理しています。
疑ったときの連絡と受診の依頼
手引きが示す疑ったときの対応は、皮膚科専門医へできるだけ早く診察を依頼すること、責任者等に連絡・報告することです。皮膚が角化している角化型疥癬が疑われる場合は、ダニの数が多く感染力が強く、治療が遅れると広がりが早いため、至急で依頼するとされています。
検査を受けるときは、疥癬の疑いがあることを伝え、採血やエックス線検査のような多くの人と接する検査は、皮膚科医の診断後にするとされています。治療薬が処方された場合は、医師の指示どおりに使います。
訪問介護事業所では、気づいた訪問介護員が責任者であるサービス提供責任者や管理者へ連絡し、利用者のかかりつけ医や担当のケアマネジャーへ受診の相談をする流れが考えられます。手引きの総論は、普段の体調と比べて変化がある場合に、かかりつけ医やケアマネジャー等へ早期に連絡・相談するとしています。受診先の選び方や診断は医師の事項で、事業所が判断するものではありません。
通常疥癬と角化型疥癬の対応の違い
手引きは、通常疥癬の利用者について、治療を開始すれば感染性はほとんどなくなるが、他の利用者と寝具やタオルなどを共用しないことを挙げています。衣類やシーツは通常どおり洗濯し、清掃も通常どおりでよいとされています。
角化型疥癬の利用者については、感染力が特に強いため個室管理とするとされています。ただし、本人等への説明と同意を得て人権に配慮するとも書かれています。ほかに、使用した部屋は2週間使用不可、リネンは落屑が飛び散らないようビニール袋に入れて洗濯に出す、こまめに掃除機をかける、といった対応が挙げられています。
これらは主に施設を想定した記載で、利用者の自宅での個室管理や居室の使用停止をそのまま求めるものではありません。自宅での対応は、皮膚科専門医や保健所の指示で確認します。
手引きは、疥癬が施設内で集団発生した場合の対応として、標準予防策に加えて接触予防策が必要だとし、手袋と使い捨ての長袖ガウンを着け、布ガウンは使わず、使用後はビニール袋に入れて密閉して捨てるとしています。入浴できる人はできるだけ毎日入浴し、入浴できない人は皮膚の観察を含めて毎日清拭します。かゆみで皮膚を掻いて傷ができやすいため、手足の爪は短く切って清潔にするとされています。
| 項目 | 通常疥癬 | 角化型疥癬(ノルウェー疥癬) |
|---|---|---|
| 感染力 | 肌と肌の接触感染が中心。治療を開始すれば感染性はほとんどなくなる | 極めて強い。落屑や、まだ温かい寝具の共用からも感染する |
| 潜伏期間 | 感染して約1〜2か月 | 4〜5日と非常に短い |
| 皮膚症状の主な場所 | 頭・首を除く全身。手首から先、手のひら、指の間に多い | 頭・首を含むほぼ全身。手足、おしり、肘、膝で顕著 |
| 受診の依頼 | できるだけ早く皮膚科専門医へ | 至急で皮膚科専門医へ |
職員の注意点と事業所で決めておくこと
手引きは職員の注意点として、前腕や腹部に兆候が出ることが多いため、接触した職員はよく観察し、皮膚のかゆみや皮疹が出たら至急皮膚科を受診して責任者に連絡するとしています。当日着た衣服は施設・事業所で洗濯し、自宅へ持ち帰らないとも書かれていますが、訪問介護では事業所に洗濯の場所がない場合もあるため、実際の扱いは医師や保健所の案内で確認します。職員自身の症状と就業の考え方は訪問介護員の予防接種・体調不良時の就業停止・体液に触れたときの受診で確認できます。
手引きの記載を実務に置き換えると、皮膚の所見を見たときの連絡先、受診の相談先、接触した職員が症状を報告する手順を決めておくと、慌てずに動けます(本サイトの整理例で、手引きが様式を定めているわけではありません)。連絡の流れは訪問介護のサービス提供・ケアマネ連携・月次報告と合わせて確認してください。個別の利用者が疥癬かどうかの判断、治療、感染防止のための具体的な措置は、皮膚科専門医と保健所に確認する事項です。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- 手のひらや指の間の線状の皮疹、夜間に強いかゆみ、赤い乾燥した盛り上がりなど、手引きが挙げる所見を観察して、見た部位と訴えを記録する
- 疑いがあれば、直ちに責任者へ連絡・報告し、利用者のかかりつけ医や担当のケアマネジャーに皮膚科の受診を相談する
- 皮膚が厚く角質化している場合は感染力が強いため、受診の依頼を急ぎにし、診断までの間の接触の仕方を医師や保健所の指示で確認する
- 接触した職員の前腕や腹部の皮膚を観察し、かゆみや皮疹が出たら皮膚科を受診して責任者へ連絡する手順を、職員に周知する
関連ガイドで計画をつなぐ
隣接する判断をつなぎ、記事単体で計画を止めないためのガイドです。
よくある質問
迷いやすい範囲と確認順を、質問ごとに整理します。
利用者に疥癬が疑われるのは、どんな皮膚の所見のときですか?
手引き第3版は、夜間に強くなるかゆみ、赤い乾燥した盛り上がり、手のひらや指の間の線状の皮疹(疥癬トンネル)などを挙げ、疑う所見としています。診断は顕微鏡検査によるため、医師が行います。
疥癬が疑われたら、まず誰に連絡しますか?
手引き第3版は、皮膚科専門医にできるだけ早く診察を依頼することと、責任者等に連絡・報告することを挙げています。皮膚が角質化している角化型疥癬が疑われる場合は、至急で依頼するとされています。
通常疥癬と角化型疥癬では、対応は同じですか?
同じではありません。手引き第3版は、通常疥癬は治療を開始すれば感染性はほとんどなくなるとする一方、角化型疥癬は感染力が極めて強いと説明しています。個別の対応は皮膚科専門医や保健所に確認します。
一次資料
個別地域の運用は指定権者で確認してください。
- 厚生労働省「介護現場における感染対策の手引き 第3版(令和5年9月)」(標準予防策(p.5・p.22〜27)、手指衛生の5つのタイミング(p.24)、訪問系の注意(p.17)、嘔吐物・排泄物の処理(p.45)、感染症発生時の対応フロー(訪問系・p.56〜57)、報告の基準(p.62)、職員の健康管理(入職時の確認・就業停止・健康診断・ワクチンによる予防・職業感染対策、p.51〜53)、疥癬(p.110〜113)、感染経路別の予防策(空気感染・飛沫感染・接触感染、p.10〜13)、利用者の健康管理(結核の排菌と治療・感染を疑う症状、p.28〜29)、誤嚥性肺炎(p.114〜115)、感染性胃腸炎・ノロウイルス(p.97〜99)、インフルエンザ(p.94〜96)、薬剤耐性菌感染症(p.117〜118)、研修の章の提供拒否に関する記載(p.40)、帯状疱疹(p.119))(確認日 2026-10-21)