運営 / 更新 2026-10-17

住宅型有料老人ホーム・サ高住の入居者への訪問介護:囲い込みと見られない線引き

住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(以下、高齢者向け住まい)の入居者への訪問介護は、本人の希望と居宅サービス計画に基づくことが前提です。同じ法人や併設の事業所が提供する場面について、厚生労働省の冊子(2022年3月)、有料老人ホーム設置運営標準指導指針、運営基準(平成11年厚生省令第37号)の第16条・第35条から、国が不適切とする対応と事業所の確認点を整理します(いわゆる「囲い込み」は国の資料の語ではなく、一般に使われる呼び方です)。個別の施設や契約が不適切に当たるかを判断するものではありません。

事務机に置かれたノートパソコンと書類・手帳の写真

国の考え方:特定事業所への限定・誘導と、希望するサービスの妨げはあってはならない

入居者を特定の事業所に限定・誘導することや、希望するサービスの利用を妨げることは、国が不適切とする対応です。厚生労働省の冊子「あなたの住まいの入居者は、望んでいる介護保険サービスを受けることができていますか?」(令和3年度老人保健健康増進等事業、2022年3月)は、介護保険サービスを利用する入居者について、これらはあってはならないと示しています。この冊子の読み手は住まいの運営事業者と職員ですが、サービスを提供する事業所にとっても、自社の位置を確かめる基準になります。

有料老人ホーム設置運営標準指導指針も、基本的事項で、特定の事業者によるサービスを利用させるような入居契約を締結することなどの方法により、入居者が希望する医療・介護サービスを設置者が妨げてはならないと定めています。指針は、老人福祉法第29条第1項に規定する有料老人ホームの設置・運営に関して、標準となる指導指針です。

ここで押さえたいのは、同じ法人や併設の事業所が入居者にサービスを提供すること自体が、不適切とされているわけではない点です。冊子は、不適切なケアマネジメントの類型の留意点として、住まいに併設された事業所から多くの入居者がサービスを受けていても、総合的な判断の結果であれば「不適切事例」には該当しないとしています。問われるのは、本人の希望や状態を踏まえた結果かどうかです。

この記事で決めること

訪問介護事業所の管理者が、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の入居者にサービスを提供する場面(併設・同一法人・提携)で、厚生労働省の冊子と標準指導指針が示す不適切な対応の考え方を確かめ、契約・計画・記録でどこに気を付けるかを決めるための考え方と確認順を整理します。

読み終えたら、住まい併設・提携の入居者への提供点検票(契約の条件・ケアプランの根拠・本人の希望の確認・記録の確認日)を作成できる状態を目指します。

冊子のチェックリスト:契約上の問題と実態としての問題

冊子は、住まい側の対応を点検するチェックリストを、契約上の問題と実態としての問題に分けて示しています。訪問介護事業所の管理者は、住まいと結ぶ契約や、依頼を受ける場面でこれらが起きていないかを確かめる手がかりにできます。

冊子が挙げる不適切な対応の例(抜粋)
区分冊子が挙げる例訪問介護事業所が見る点(運用の提案)
契約上の問題特定の介護保険サービスや事業所の活用が契約条件になっている。または契約条件と同一視できる形になっている住まいとの契約書や覚書に、自社の利用を入居の条件にする文言がないか
契約上の問題本人の状態にかかわらず、区分支給限度基準額の上限まで特定のサービスを入れることが契約条件になっている依頼された訪問の量が、本人の状態ではなく限度額に合わせて決まっていないか
契約上の問題特定のサービスや併設事業所のサービスを多く利用することを条件に、入居費用を割り引いている入居費用の割引と自社の利用が結び付けられていないか
実態としての問題本人の希望より、住まい運営法人と同じ法人のサービスを優先している。追加サービスが客観的に不要で本人の希望もないのに、限度額に余裕があるだけで同一法人のサービスを追加している訪問の内容が本人の希望と状態の確認に基づいているか
実態としての問題入居時に、ケアマネジャーからのケアプラン説明をさせない。利用票のサインを住まい職員が代筆している利用票の確認が本人かケアマネジャーによるものになっているか

運営基準の2つの条:計画に沿った提供と、利益供与の禁止

運営基準第16条は、居宅サービス計画が作成されている場合は、当該計画に沿った指定訪問介護を提供しなければならないと定めています。住まいの職員から訪問の追加や時間の変更を頼まれたときも、居宅サービス計画に位置付けられていない内容を頼まれたときは、居宅介護支援事業者に連絡して計画の確認を求める進め方が考えられます(運用の提案)。詳しくは訪問介護の居宅サービス計画に沿った提供(基準第16条・第17条)で整理しています。

第35条は、居宅介護支援事業者又はその従業者に対し、利用者に特定の事業者によるサービスを利用させることの対償として、金品その他の財産上の利益を供与してはならないと定めています。この条の対象は訪問介護事業所から居宅介護支援事業者への金品の供与で、住まいとの金銭のやり取りは本条の対象外ですが、住まいが居宅介護支援事業所を併設する場合は運用上の確認として見直しておくと安全です(運用の提案)。詳しくは訪問介護の利益供与の禁止(基準第35条):居宅介護支援事業者への金品で読めます。

事業所の動き:契約、依頼、本人の希望、月次の点検

次の順で進めると、「本人が選んだ結果である」ことを後から説明しやすくなります。各行の根拠のうち「運用の提案」は、条文や冊子に書かれた手順ではなく、冊子のチェックリストの趣旨に沿った進め方の一例です。

高齢者向け住まいの入居者に訪問介護を提供するときの動き
場面事業所の動き根拠
住まいとの契約・覚書自社の利用を入居の条件にする文言や、利用による入居費用の割引がないかを確かめる。あれば管理者が内容を見直す冊子のチェックリスト(契約上の問題)。確認の進め方は運用の提案
依頼を受けたとき依頼元が住まいの職員かケアマネジャーかを記録し、居宅サービス計画の写しで、提供する内容と時間が計画にあることを確かめる基準第16条。依頼元の記録は運用の提案
初回と見直しのとき本人と家族に、希望するサービスや事業所を聞き、他の事業所も選べることを伝え、聞いた内容と日付を残す標準指導指針(入居者が希望するサービスを妨げない)と冊子の趣旨。記録は運用の提案
提供中本人の状態の変化を記録し、変化があれば居宅介護支援事業者へ連絡する。状態に関係なく同じ内容が続いていないかを見る基準第16条(計画に沿った提供)。状態変化の連絡と点検は運用の提案
月次利用票の確認が本人かケアマネジャーによるものかを点検し、点検票に確認日を残す冊子のチェックリスト(利用票の代筆)。点検は運用の提案

起こりやすい失敗:住まいの意向を本人の希望と取り違える

住まいの職員から「この方は毎日お願いします」と頼まれ、本人の希望や居宅サービス計画を確かめないまま訪問を入れると、住まいの都合に沿ったサービスになりやすくなります。依頼の根拠が、本人の希望と居宅サービス計画にあるかを確かめてから受けます(運用の提案)。

また、住まい側から「他の事業所は入れないでほしい」と求められたときは、本人が他の事業所を選べることを妨げる内容になっていないかを管理者が確認します。冊子は、本人の希望する介護保険サービスの利用を妨げることはあってはならないとしています。判断に迷うときは、居宅介護支援事業者を通じて、指定権者である都道府県・市町村、または有料老人ホームを所管する自治体の窓口へ確認してください。

同一建物に住む入居者への訪問は、報酬の減算の対象になることがあります。減算の判定は別の記事で整理しており、この記事は減算の可否を判断するものではありません。

次に読む記事

同一建物の入居者への訪問の減算と90%判定は、同一建物減算(サ高住・有料老人ホーム併設と90%判定)で読めます。

ケアマネジャーとの連携と月次報告は、訪問介護のサービス提供・ケアマネ連携・月次報告で読めます。

居宅介護支援事業者への金品の提供の禁止は、訪問介護の利益供与の禁止(基準第35条):居宅介護支援事業者への金品で読めます。

実行チェックリスト

次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。

  1. 住まいとの契約書や覚書に、特定の事業所や介護サービスの利用を入居の条件にする文言、利用による入居費用の割引がないかを確かめ、あれば管理者が内容を見直す
  2. 新しい入居者の依頼を受けたら、依頼元が住まいの職員かケアマネジャーかを記録し、居宅サービス計画の写しで、提供する内容と時間が計画に位置付けられていることを確かめる
  3. 初回訪問と見直しの時に、本人と家族に希望するサービスや事業所を聞き、他の事業所も選べることを伝えて、聞いた内容と日付を記録する
  4. 本人の状態に関係なく同じ内容の訪問が続いていないか、利用票の確認が本人かケアマネジャーによるものかを、月次で点検票に残す

一次資料

個別地域の運用は指定権者で確認してください。

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