運営 / 更新 2026-10-19

訪問介護員への給料の前借りと貸付:賃金との相殺・社内預金・非常時払

訪問介護員から、給料日前にお金を貸してほしい、給料を前借りしたいと求められることがあります。このとき、貸したお金を次の給料から差し引いてよいか、社内で預かる積立てを作ってよいか、病気などで給料日前に賃金を請求されたらどうするか、が問題になります。このページは、労働基準法の第17条、第18条、第25条と、厚生労働省のQ&Aをもとに整理します。

事務机に置かれたノートパソコンと書類・手帳の写真

第17条:前借金と賃金の相殺の禁止

労働基準法第17条は、使用者が、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならないと定めています。厚生労働省は、この規定を、前借金により身分的拘束を伴い労働が強制されるおそれがあることなどを防止するためのものと説明しています。

ただし、貸付金が身分的拘束を伴わないことが明らかなものは、本条の違反にならないと解されています。厚生労働省は、住宅建設資金の融資を例に、貸付の原因が真に労働者の便宜のためで、労働者の申出に基づくこと、貸付の期間と金額が、賃金や退職金の充当で生活を脅かさずに返せる範囲であること、返済前でも退職の自由が制約されていないことなどを、総合して判断するとしています。

この記事で決めること

訪問介護員から給料の前借りや貸付を求められた事業所の運営者が、労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)、第18条(強制貯金の禁止と社内預金の条件)、第25条(非常時払)の内容を、厚生労働省の資料で確かめて対応を整理するための考え方と確認順を整理します。

読み終えたら、給料の前借り・貸付の対応メモ(前借りの申出の受け方、貸付と賃金控除の可否、社内預金の有無、非常時払に当たる事情の確認手順)を作成できる状態を目指します。

貸付金を賃金から差し引くとき:一方的な相殺はできない

厚生労働省は、賃金は全額を払う原則(労基法第24条第1項)があり、使用者が貸付金と賃金を一方的に相殺することはできないと解されると説明しています。訪問介護員に貸したお金を、事業所の判断で給料から差し引くことは、できません。

例外として、最高裁は、相殺が労働者の自由な意思に基づくと認め得る合理的な理由が客観的に存在する場合には、合意による相殺は第17条に違反しないとしています。ただし、同意が自由な意思に基づくかの判断は厳格かつ慎重に行われるため、厚生労働省は、同意が客観的に確認できるように合意の書面を取っておくことが望ましいとしています。

貸付金と賃金を相殺するには、賃金の一部控除に関する労使協定も必要とされています。協定で控除できるのは、購買代金、社宅や寮の費用、社内預金、組合費など、事理明白なものに限られるという行政解釈があります。賃金の支払いの原則と控除の全体は賃金の支払い方で整理しています。

第18条:強制貯金の禁止と、社内預金の条件

労働基準法第18条は、使用者が、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせたり、貯蓄金を管理する契約をしたりしてはならないと定めています。給料から強制的に積立てをさせる形は、認められません。

労働者の委託を受けて貯蓄金を管理する場合は、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者との書面の協定を結んで行政官庁に届け出ること、貯蓄金の管理に関する規程を定めて労働者に周知することが必要です。管理が預金の受入れである場合は、利子をつけなければなりません。労働者から返還を請求されたときは、遅滞なく返さなければなりません。

社内預金や積立てをもともと扱っていない事業所は、新たに始めるときに、これらの条件を満たせるかを確かめます。減給の上限や、研修費用の返還を求める定めも、賃金の扱いに関わる別の論点として整理しています。

第25条:非常の場合は、支払期日前でも賃金を支払う

労働基準法第25条は、労働者が出産、疾病、災害その他の非常の場合の費用に充てるために請求するときは、支払期日前であっても、既に働いた分の賃金を支払わなければならないと定めています。前借りと違い、まだ働いていない分を先に払うのではなく、既に働いた分を早く払う仕組みです。

非常の場合は、労働基準法施行規則第9条が定めています。労働者の収入で生計を維持する者の出産、疾病、災害の場合、労働者またはその生計維持者の結婚や死亡の場合、やむを得ない事由で1週間以上帰郷する場合です。請求を受けたときは、これらに当たるかを確認します。

退職する職員から賃金の支払いを求められたときの期限は、退職願と有給休暇の消化で整理しています。

この記事で確認した範囲

労働基準法の第17条、第18条、第25条と同法施行規則第9条の本文をe-Gov法令検索で、貸付金と賃金の相殺については厚生労働省のスタートアップ労働条件のQ&Aで、2026-10-19に確認しました。個別の貸付が第17条に違反するかの判断、社内預金の利率や届出の様式、通達の原文は確認しておらず、扱っていません。

具体的な貸付や積立ての可否は、事情により判断が分かれます。社会保険労務士や管轄の労働基準監督署に相談してください。

実行チェックリスト

次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。

  1. 訪問介護員から給料の前借りや貸付を求められたときの窓口と、受けるか断るかの判断者を決める
  2. 貸付をする場合は、身分的拘束を伴わないこと、返済前でも退職の自由が制約されないことを確かめ、貸付の条件を書面にして、賃金からの控除は労使協定の有無と同意の書面を確認してから決める
  3. 社内預金や積立てを扱っているか確認し、扱っている場合は労使協定の届出、管理規程の周知、利子、返還請求への対応が整っているかを点検する
  4. 出産、疾病、災害などで支払期日前の賃金を請求されたときは、既に働いた分の賃金を支払う手順と、非常の場合に当たるかの確認方法を決める

一次資料

個別地域の運用は指定権者で確認してください。

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