運営 / 更新 2026-10-17
訪問介護事業所の公益通報者保護法:従業員300人以下の努力義務と通報者の保護
公益通報者保護法は、働く人が勤め先の法令違反を通報したときに、解雇の無効や不利益な取扱いの禁止で守る法律で、訪問介護の従業員も介護報酬の不正請求や記録の改ざんに気づく立場になることがあります。この記事は、e-Gov法令検索の現行条文(2026-10-17取得)で、通報した人が守られる範囲と、事業所が通報の窓口や担当者を整える義務の程度(常時使用する労働者が300人以下の事業者は努力義務)を整理します。個別の通報が公益通報に当たるかの判断は、この記事では確定しません。
公益通報とは:勤め先の法令違反を不正の目的なく通報すること
公益通報とは、労働者が勤め先の法令違反を、不正の目的でなく通報することです。第2条第1項は、労働者(労働基準法第9条の労働者)または労働者であった者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、勤め先について通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしている旨を通報することを公益通報と定めます。通報の相手は、勤め先またはあらかじめ定めた者、処分や勧告をする権限を持つ行政機関、そしてその他の者の3つに分かれます。
退職した人も、通報の日の前1年以内に自分を使用していた事業者への通報なら対象です。派遣労働者は派遣先の事業者、請負契約などで事業に従事する労働者は元の事業者、役員は役員に職務を行わせる事業者に対する通報が、それぞれ別の号で対象になります。業務委託で働くヘルパーが労働者に当たるかは働き方の実態で変わるため、訪問介護員の業務委託:労働者に当たるかの判断基準とフリーランス法の明示・60日払いで先に確認すると整理しやすくなります。
この記事で決めること
訪問介護事業所の経営者や管理者が、従業員が事業所の法令違反を通報したときに通報者が守られる範囲と、通報の担当者や体制を整える義務の程度(300人以下は努力義務)を、公益通報者保護法の条文で確認するための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、公益通報への対応メモ(通報を受ける担当者・通報者情報の共有範囲・書面通報への連絡手順・通報後の処遇の記録方法)を作成できる状態を目指します。
通報の対象になる事実:別表の法律の罪と過料に関わる事実
通報の対象は、別表の法律に規定する罪と過料に関わる事実です。第2条第3項が定める通報対象事実は、この法律と別表に掲げる法律(これらに基づく命令を含む)に規定する罪の犯罪行為の事実、過料の理由とされている事実、そして別表の法律に基づく処分に違反することがこれらの事実となる場合の、その処分の理由とされている事実です。別表には刑法などが掲げられ、別表第八号は個人の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律のうち政令で定めるものを加える形になっています。
その政令が「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」(平成17年政令第146号)で、2026-10-17にe-Govで確認した一覧には、介護保険法(平成9年法律第123号)と老人福祉法(昭和38年法律第133号)が含まれています。介護報酬の不正請求のように法律の罪に当たり得る事実は通報対象事実になり得ますが、通報対象事実は罪や過料に関わる事実と、それに関わる処分の理由に限られるため、就業規則の不備や上司との意見の対立だけでは、この定義に直接は当たりません。個別の事実が当てはまるかは、弁護士などの専門家に確認してください。
通報先は3種類:事業所内・行政機関・その他で保護される要件が違う
第3条は、労働者である公益通報者を通報を理由に解雇することを無効としますが、通報先によって保護される要件が変わります。事業所内への通報は、通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると思料する場合で足ります。行政機関への通報は要件が重くなり、信ずるに足りる相当の理由があるか、思料したうえで氏名・住所、通報対象事実の内容、そう思料する理由、措置がとられるべきと思料する理由を書いた書面を出す場合です。
その他の者への通報は最も要件が厳しく、条文は、信ずるに足りる相当の理由があり、かつ次のいずれかに当たる場合と定めます。なかでも事業所に関わるのは、書面で事業所内に通報した日から20日を経過しても、調査を行う旨の通知がない場合、または正当な理由なく調査を行わない場合です。この読み方に立つと、書面で通報を受けた事業所が、20日以内に調査を行う旨を通報者へ知らせる段取りを持っておくことには意味があります。
| 通報先 | 条文 | 保護される要件(条文のとおり) |
|---|---|---|
| 勤め先、または勤め先があらかじめ定めた者 | 第3条第1号 | 通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると思料する場合 |
| 処分や勧告をする権限を持つ行政機関等 | 第3条第2号 | 信ずるに足りる相当の理由がある場合、または思料したうえで氏名・住所、事実の内容、そう思料する理由、措置がとられるべきと思料する理由を書いた書面を提出する場合 |
| 通報することが被害の発生や拡大の防止に必要と認められる者 | 第3条第3号 | 信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、事業所内や行政機関へ通報すれば解雇などの不利益を受けると信ずる理由がある、証拠隠滅のおそれがある、通報者を特定する情報を漏らすと信ずる理由がある、通報しないよう要求された、書面で通報した日から20日を経過しても調査の通知がない、個人の生命・身体への危害や、個人の財産への回復できない損害などの急迫した危険がある、のいずれか |
通報した人の保護:解雇の無効・不利益取扱いの禁止・賠償請求の制限
解雇は第3条で無効とされ、解雇以外の不利益な取扱いは第5条第1項で禁止されます。条文が例に挙げるのは、降格、減給、退職金の不支給で、派遣労働者の場合は、派遣先が派遣元に派遣労働者の交代を求めることなどが第5条第2項で禁止されます。通報を理由にした扱いが対象なので、通報の後に評価や配置を変えるときは、変更の理由を示す記録が事業所の備えになります。
第7条は、事業者が通報によって損害を受けたことを理由に、通報した人へ賠償を請求することも認めません。ここで保護されるのは第3条各号などの要件を満たす通報で、要件を満たさない通報まで同じ保護が及ぶとは限りません。解雇そのものの手続は別の話で、訪問介護員を解雇するときの30日前の予告と解雇予告手当(労働基準法第20条)が扱う予告の規定とは別に判断されます。
事業所がとる措置:担当者と体制の整備、300人以下は努力義務
第11条第1項は、事業者に、通報を受け、調査し、是正に必要な措置をとる業務(公益通報対応業務)に従事する者を定めることを求めます。同条第2項は、通報者の保護を図り、通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の措置をとることを求めます。第3項により、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者は、「定めなければ」が「定めるように努めなければ」、「とらなければ」が「とるように努めなければ」と読み替えられ、努力義務になります。
第4項は、事業者がとるべき措置の指針を内閣総理大臣が定めると規定します。指針の項目はこの記事では確認していないため、窓口を実際に作るときは、消費者庁の案内で最新の指針を読んでください。第15条により、内閣総理大臣は第11条第1項・第2項の施行に必要があるとき事業者に報告を求め、助言、指導、勧告ができ、第16条は、第11条第1項・第2項に違反している事業者が勧告に従わなかったときに公表できると定めます。
窓口の担当者になった人は、第12条により、通報対応業務で知った通報者を特定させる事項を正当な理由なく漏らしてはならず、違反すると第21条で30万円以下の罰金が定められています。氏名など通報者が特定できる情報を誰まで共有してよいかを、担当者を決めるときに併せて決めておく必要があります。
小規模な訪問介護事業所で決めておく項目(条文の確認事項と運用の例)
努力義務にとどまる事業所でも、通報の受け皿が無ければ、従業員は行政機関などへ直接通報するしかなくなります。次の表は、条文が根拠になる確認事項と、小規模な事業所での決め方の例を分けて並べたものです。決め方の例は条文が定める形ではなく、事業所の規模や体制に合わせて変えてよい部分です。
| 項目 | 条文の根拠 | 決め方の例(事業所ごとに変える部分) |
|---|---|---|
| 通報を受ける担当者 | 第11条第1項 | 管理者本人が通報の対象になる場合に備え、法人の代表者など管理者以外の人も受けられるようにする |
| 通報者の情報の扱い | 第12条 | 氏名など通報者が特定できる情報を共有する範囲を、担当者だけに限る |
| 書面での通報への連絡 | 第3条第3号ホ | 書面で通報を受けたら、20日以内に調査を行う旨を通報者へ知らせる手順を決める |
| 通報後の処遇 | 第3条、第5条第1項 | 通報後に配置や評価を変えるときは、変更の理由を記録に残す |
次に読む記事
次に読む記事は3本です。利用者や家族からの苦情を受ける窓口は訪問介護の苦情処理(基準第36条):窓口・記録・市町村と国保連の調査協力と改善報告、虐待を発見した従業員の通報と通報者の保護は高齢者虐待の通報義務:市町村への通報と通報者の保護、不正請求が見つかったときの報酬返還は訪問介護の報酬返還:不正請求の徴収金(100分の40の上乗せ)と過誤調整の違いで確認できます。
この記事は、公益通報者保護法の現行条文と関係政令を整理したもので、個別の通報が公益通報に当たるか、保護の対象になるかの確定ではありません。法令は改正されることがあるため、実際の取扱いは消費者庁の案内や専門家に確認してください。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- 常時使用する労働者の数を数え、300人以下なら第11条の担当者の指定と体制整備が努力義務であること、301人以上なら義務であることを確認する
- 通報を受ける担当者を決める。管理者本人が通報の対象になる場合に備え、管理者以外の人も受けられるようにする
- 通報者を特定できる情報を共有する範囲を担当者だけに決め、第12条の守秘義務を担当者に伝える
- 書面で通報を受けたら20日以内に調査を行う旨を通報者へ知らせる手順を決め、通報後に配置や評価を変えるときは理由を記録に残す
一次資料
個別地域の運用は指定権者で確認してください。
- デジタル庁(e-Gov法令検索)「公益通報者保護法(平成16年法律第122号)」(確認日 2026-10-17)
- デジタル庁(e-Gov法令検索)「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令(平成17年政令第146号)」(確認日 2026-10-17)