運営 / 更新 2026-10-21

利用者に結核・麻しんの疑いがあるとき:訪問介護のサービス見合わせ・N95マスク・換気

利用者に結核や麻しんのような空気感染する感染症の疑いがあるとき、厚生労働省の「介護現場における感染対策の手引き 第3版」(令和5年9月)は、施設系以外のサービスでは原則としてサービス利用を見合わせるとしています。接触する場合は、市販のマスクではなくN95などの高性能マスクを着けるとされています。このページは、疑うきっかけ、見合わせ・マスク・換気の考え方、報告先を手引きで確認し、手洗いや防護具など感染症全般の手順は訪問介護の感染対策の手引きで扱っています。

事務机に置かれたノートパソコンと書類・手帳の写真

空気感染とは:結核・麻しん・水痘と、ほかの感染経路との違い

手引きは、感染経路を空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染に分けています。空気感染は、病原体を含む5ミクロン以下の小さな粒子(飛沫核)が空気中に拡散し、これを吸い込んで起こる感染経路で、主な病原体は結核菌、麻しんウイルス、水痘ウイルスです。飛沫核は空気中に浮遊するため、除去には陰圧室のような特殊な換気とフィルターが必要になるとされています。

飛沫感染は、5ミクロンより大きい飛沫が咳やくしゃみで飛び、短い距離(1〜2m以内)しか届かないとされ、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどが挙がっています。接触感染にはノロウイルスや疥癬などが挙がっています。経路が違えば防護の道具も変わるため、疑う感染症がどの経路かを医師や保健所に確認することが出発点になります。

手引きは、対象者の感染の有無にかかわらず、発熱、咳、下痢などの疑われる症状がある場合には、医師の診断前であっても、すみやかに予防策をとることが必要だとしています。

感染経路ごとの主な予防策(手引き第3版の記載の要約)
経路主な病原体職員の防護の主な内容環境面の主な内容
空気感染結核菌、麻しんウイルス、水痘ウイルスN95などの高性能マスク。利用者は不織布マスク十分な換気。感染者や疑いのある者の居室の廊下側ドアは閉じる
飛沫感染インフルエンザウイルス、風しんウイルス、新型コロナウイルスなどマスク(原則サージカルマスク)、ゴーグルサービス提供場所に特殊な空調の設置は不要
接触感染腸管出血性大腸菌、ノロウイルス、疥癬などガウン(またはエプロン)と手袋接触の多い手すりやドアノブなどの消毒

この記事で決めること

訪問介護員やサービス提供責任者が、利用者に結核・麻しん・水痘のような空気感染する感染症の疑いがあるときに、サービスの見合わせ、マスクの種類、換気、報告先をどう考えるかを、厚生労働省の感染対策の手引き第3版で確認するための考え方と確認順を整理します。

読み終えたら、空気感染が疑われるときの連絡メモ(続く咳・微熱・寝汗などの観察内容・サービスの見合わせの判断者・連絡先・接触した職員の確認欄)を作成できる状態を目指します。

疑うきっかけ:訪問時に見る症状と、報告の決め方

手引きは、利用者の健康状態を常に注意深く観察し、次のような症状が認められたら直ちに看護職員や医師に報告して記録するとしています。意識レベルの低下、発熱、咳や喀痰の増加、寝汗、体重減少、いつもと比べて活気がない、などです。発熱については、おおむね38℃以上、または平熱より1℃以上の体温上昇を発熱ととらえるとされ、結核では微熱が持続したり繰り返したりすることもあると書かれています。

看護職員や医師がいない場合は、あらかじめ報告する人を決めておくことが求められています。訪問介護の事業所は医師や看護職員の配置が求められていないため、手引きは、併用されている医療系サービス事業所などと情報共有する方法を挙げています。

実務では、気づいた訪問介護員がサービス提供責任者へ連絡し、ケアマネジャーやかかりつけ医へ相談する流れが考えられます。連絡の流れは訪問介護のサービス提供・ケアマネ連携・月次報告と合わせて確認してください。

手引きは、高齢者では典型的な症状が出にくく、見た目が軽症でも重篤な病態に進んでいることがあると注意しています。「普段の反応と違う」「今日は笑顔が見られない」といった日常の変化を早く把握することが大切だとされています。結核かどうかの判断は医師の事項で、訪問介護員や事業所が決めるものではありません。

疑われるときの手引きの対応:サービスの見合わせ・マスク・換気

空気感染の予防策として、手引きは、利用者に感染が疑われる症状(発熱等)がある場合には原則としてサービス利用を見合わせる(施設系を除く)としています。職員に感染が疑われる場合は、原則として出勤しないとされています。

患者と接触する際は、職員はN95などの高性能マスクを着け、利用者は不織布マスクを着けるとされています。

備考として、一般に市販されている不織布製やガーゼのマスクでは飛沫核が通過するため、職員が空気感染する感染症を防ぐ手段としては不十分であることに注意するよう書かれています。N95マスクは、米国の国立労働安全衛生研究所が定めた規格を満たして認可された微粒子用のマスクと、手引きの注で説明されています。

環境面では、十分な換気を行い、感染者や疑いのある者の居室の廊下側のドアは閉じるとされています。また、高齢者では入院による治療が必要になることも少なくなく、感染が判明してから病院へ移送するまでの間は原則として個室管理とされています。

これらは施設を主に想定した記載を含み、利用者の自宅で個室管理や陰圧換気をそのまま求めるのは現実的ではありません。サービスを見合わせたときの生活の支えをどうつなぐかは、ケアマネジャー、かかりつけ医、保健所と相談して決める事項です。見合わせの判断の記録は訪問介護のサービス提供記録と合わせて残しておくと、あとで経緯を説明しやすくなります。

結核の場合:排菌の有無と保健所との関わり

手引きの利用者の健康管理の項は、注意が必要な疾患として疥癬と結核を挙げています。結核で排菌がある場合(他人に感染させうる状態)は、排菌が認められなくなるまで、医療機関で入院治療をする必要があります。排菌のない場合は外来治療が可能と書かれています。

手引きの総論は、感染症法に基づいて保健所が必要に応じて積極的疫学調査を行い、介護施設等はこの調査に協力するとしています。結核は感染症法で二類感染症に分類されており、法令に基づく区分に応じた対応・措置が必要と書かれています。感染症を疑う利用者がいるときに速やかな受診を勧めることと、予防や発生の際に保健所や専門機関の指導を受けながら拡大防止の措置を講じることも、管理者の役割として挙げられています。

接触者の範囲や健診の対象は、保健所が調査して決める事項です。事業所が自分で判断せず、利用者に診断が出たとの連絡があったら、接触した職員の名簿と接触した日時を保健所へ示せるよう準備しておくと、調査に協力しやすくなります。診断された事実は個人情報にあたるため、共有の範囲は必要な関係者に限ります。

職員の注意点と事業所で決めておくこと

手引きの職員の健康管理の項は、常勤職員の雇入時の健康診断として胸部エックス線検査を実施することになっていると書いています(労働安全衛生規則)。精密検査が必要だったのに本人の判断で受診せず、結核が進行して接触者の集団検診を実施せざるを得なくなった事例も、ワンポイントアドバイスとして載っています。職員自身の症状や予防接種の考え方は訪問介護員の予防接種・体調不良時の就業停止・体液に触れたときの受診で確認できます。

手引きの記載を実務に置き換えると、咳や微熱が続く利用者を見つけたときの報告先、サービスを見合わせる場合の判断者と相談先、高性能マスクを使う場合の用意と着け方の確認、接触した職員の把握の手順を決めておくと、慌てずに動けます(本サイトの整理例で、手引きが様式を定めているわけではありません)。事業所全体の感染対策の指針や研修は訪問介護の衛生管理等(基準第31条)で確認できます。

個別の利用者が結核や麻しんかどうかの判断、治療、接触者の扱い、高性能マスクの選び方と着け方は、医師と保健所に確認する事項です。このページの内容は手引きの記載の要約であり、個別の事案への助言ではありません。

実行チェックリスト

次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。

  1. 咳や痰の増加、続く微熱、寝汗、体重減少など、手引きが挙げる症状を見たら、訪問先で記録して責任者へ直ちに報告する
  2. 手引きは疑いのある利用者へのサービスを原則見合わせるとしているため、見合わせるかどうか、代わりの見守りをどうするかを、ケアマネジャーやかかりつけ医と相談する
  3. やむを得ず接触するときは、市販の不織布やガーゼのマスクでは足りないとされている点を踏まえ、高性能マスク(N95など)の用意と、利用者への不織布マスクの着用を確認する
  4. 診断や接触者への対応は医師と保健所の指示で確認し、接触した職員の名簿と症状の報告手順を整えておく

関連ガイドで計画をつなぐ

隣接する判断をつなぎ、記事単体で計画を止めないためのガイドです。

よくある質問

迷いやすい範囲と確認順を、質問ごとに整理します。

空気感染する感染症とは、どんなものですか?

手引き第3版は、病原体を含む5ミクロン以下の小さな粒子(飛沫核)が空気中に浮遊し、それを吸い込んで感染する経路としています。主な病原体として、結核菌、麻しんウイルス、水痘ウイルスを挙げています。

利用者に空気感染が疑われる症状があるとき、訪問介護は予定どおり入ってよいのですか?

手引き第3版は、利用者に感染が疑われる症状(発熱等)がある場合、原則としてサービス利用を見合わせるとしています(施設系を除く)。実際に見合わせるか、代わりにどう支えるかは、ケアマネジャーやかかりつけ医と相談して決めます。

市販のマスクで空気感染は防げますか?

手引き第3版は、一般に市販されている不織布製やガーゼのマスクでは飛沫核が通過するため、職員が空気感染を防ぐ対策としては不十分だとしています。患者と接触する際は、N95などの高性能マスクを着けるとされています。

一次資料

個別地域の運用は指定権者で確認してください。

  • 厚生労働省「介護現場における感染対策の手引き 第3版(令和5年9月)」(標準予防策(p.5・p.22〜27)、手指衛生の5つのタイミング(p.24)、訪問系の注意(p.17)、嘔吐物・排泄物の処理(p.45)、感染症発生時の対応フロー(訪問系・p.56〜57)、報告の基準(p.62)、職員の健康管理(入職時の確認・就業停止・健康診断・ワクチンによる予防・職業感染対策、p.51〜53)、疥癬(p.110〜113)、感染経路別の予防策(空気感染・飛沫感染・接触感染、p.10〜13)、利用者の健康管理(結核の排菌と治療・感染を疑う症状、p.28〜29)、誤嚥性肺炎(p.114〜115)、感染性胃腸炎・ノロウイルス(p.97〜99)、インフルエンザ(p.94〜96)、薬剤耐性菌感染症(p.117〜118)、研修の章の提供拒否に関する記載(p.40)、帯状疱疹(p.119))(確認日 2026-10-21)

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