運営 / 更新 2026-10-17

訪問介護事業所の障害者差別解消法への対応:合理的配慮の提供義務と不当な差別的取扱いの禁止

障害のある利用者や家族から、説明の方法や連絡の手段を変えてほしいと求められることがあります。障害者差別解消法は、事業者に、障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止と、合理的配慮の提供を求めています。この記事は、同法の条文をe-Govで、厚生労働省の福祉事業者向けガイドライン(令和6年3月)を2026-10-17に確認し、訪問介護事業所が整えておくことを整理します。

事務机に置かれたノートパソコンと書類・手帳の写真

法第8条:差別的取扱いの禁止と、合理的配慮の提供義務

障害者差別解消法の第8条は、事業者に2つのことを求めています。1つは、障害を理由に障害者でない者と不当な差別的取扱いをして、障害者の権利利益を侵害してはならないこと(第1項)です。もう1つは、障害者から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があり、実施に伴う負担が過重でないときに、性別・年齢・障害の状態に応じて必要かつ合理的な配慮をしなければならないこと(第2項)です。

事業者による合理的配慮の提供は、令和3年法律第56号の施行の日である令和6年4月1日から義務になりました。厚生労働省のガイドラインは、この日から適用すると冒頭に書いています。この法律の事業者は、目的が営利か非営利か、個人か法人かを問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者をいうと、ガイドラインは基本方針を引いて説明しています。

ガイドラインが対象にする福祉事業者の例には、高齢者福祉関係事業として特別養護老人ホームと通所介護事業所が挙がっていますが、訪問介護の名は例示にありません。ただし、第8条は事業を行う者全般に課されているため、訪問介護事業所も、障害のある利用者への対応ではこの条を前提にします。

この記事で決めること

訪問介護事業所の管理者が、障害のある利用者や家族から配慮を求められたときに、障害者差別解消法の不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供義務を、厚生労働省の福祉事業者向けガイドラインの例と過重な負担の判断要素で確かめ、対応と相談体制を決めるための考え方と確認順を整理します。

読み終えたら、障害のある利用者への配慮の対応票(配慮の申出の記録、対応案、過重な負担の検討の記録、相談窓口の案内)を作成できる状態を目指します。

不当な差別的取扱いに当たるおそれがある例

ガイドラインの第3(1)は、福祉サービスの提供で不当な差別的取扱いとなるおそれがある例を挙げています。例示は限定ではなく、客観的にみて正当な理由がある場合は該当しないことがあると断っています。

訪問介護の場面に引き寄せると、次の例が近いものです。提供の拒否そのものは、運営基準の定めと合わせて訪問介護の提供拒否禁止と提供困難時の紹介・連絡で読めます。

ガイドラインが挙げる不当な差別的取扱いのおそれがある例(抜粋)
類型ガイドラインの例(原文の趣旨)
サービスの利用を拒否する本人や第三者の安全性を具体的に考慮せず、漠然とした安全上の問題を理由に利用を拒否する
サービスの利用を拒否する人的体制・設備体制が整い対応可能なのに、医療的ケアの必要な障害者、重度の障害者、多動の障害者の利用を拒否する
サービスの利用を制限する正当な理由なく、対応を後回しにする、サービス提供時間を変更または限定する
サービスの利用を制限するサービスの利用に必要な情報提供を行わない
利用に条件を付す保護者や支援者・介助者の同伴をサービスの利用条件とする
異なる取扱いをする本人を無視して、支援者・介助者や付添者のみに話しかける

合理的配慮の例と、過重な負担の判断要素

ガイドラインの第3(3)は、合理的配慮に当たる例を挙げています。説明文書の点字版・拡大文字版・テキストデータの提供や代読・代筆、手話・筆談・図解・ふりがな付文書など本人が希望する方法で分かりやすく説明すること、電子メールやファックスなど多様な媒体で情報提供と受付を行うことが例で、口話が読めるようにマスクを外して話すことや、障害の特性に応じた休憩時間などのルールを柔軟に変えることも例示です。

これらは例示で、事業者に強制する性格のものではなく、事業規模などによっては過重な負担になる可能性があるとガイドラインは断っています。配慮を断る場合は、具体的な検討をせずに過重な負担を拡大解釈してはいけません。

過重な負担かどうかは、個別の事案ごとに次の5つの要素などを考慮し、総合的・客観的に判断します。過重な負担に当たると判断したときは、障害者に丁寧にその理由を説明し、理解を得るよう努め、代わりの措置も含めて柔軟に検討することが求められています。

過重な負担の判断要素(ガイドライン第2(2)②)
要素ガイドラインの説明
事務・事業への影響の程度事務・事業の目的・内容・機能を損なうか。サービス提供への影響、その他の事業への影響の程度
実現可能性の程度物理的・技術的制約、人的・体制上の制約。機器や技術、人材の確保、設備の整備などの実現可能性
費用・負担の程度措置を講ずる費用・負担の程度。複数の障害者から要望があったときは、それぞれの必要性と負担を勘案する
事務・事業規模事業所の規模に応じた負担の程度
財務状況事業所の財務状況に応じた負担の程度

配慮しなくてよい場合:事業の一環でない業務の提供

ガイドラインの第3(5)は、合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例として、事業の一環として行っていない業務の提供を求められて断ることを挙げています。ただし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られる点が観点として示されています。

訪問介護では、介護保険の訪問介護でできる範囲を超える依頼がこれに近い場面です。範囲の線引きは老計10号とは?訪問介護でできること・できないこと一覧(身体介護・生活援助の区分)で読めます。断る場合でも、理由を丁寧に説明し、建設的な対話で理解を得るよう努めることが望まれています。

反対に、ガイドラインの第3(4)は、提供義務違反に当たるおそれがある例を2つ挙げています。1つは、筆記が困難でデジタル機器の使用を求められたのに、前例がないことを理由に、必要な調整をせず一律に断ること、もう1つは、電話が難しい人から電話以外の手段を求められたのに、マニュアル上は電話のみとされていることを理由に、電子メールなどの代替措置を検討せず断ることです。重要事項の説明や連絡手段がマニュアル上一つに決まっている事業所は、この例に近いかどうかを点検できます。

事業所の備え:相談体制・研修・行政措置

ガイドラインは、事業所の相談体制の整備を重要としています(第4)。既存の苦情解決体制や相談窓口を活用することも考えられ、ホームページなどで窓口を周知し、対面のほか電話・ファックス・電子メールなど複数の手段を障害特性に応じて可能な範囲で用意しておくことが重要とされています(第5は職員への研修・啓発)。窓口の作り方は訪問介護の苦情処理(基準第36条):窓口・記録・市町村と国保連の調査協力と改善報告で読めます。

法第5条は、合理的配慮を的確に行うための環境の整備(施設の構造の改善、設備の整備、関係職員への研修など)を、事業者の努力義務としています。配慮の申出を受けたときの記録の様式や、説明文書を読みやすい形に直す手順を前もって用意しておくことは、この環境の整備にあたります(運用の提案)。

行政措置として、法第12条は、主務大臣が特に必要があると認めるときに、事業者に報告を求め、助言・指導・勧告をすることができると定めています。第26条は、第12条の報告をせず、または虚偽の報告をした者を20万円以下の過料に処すると定めています。

起こりやすい失敗:同伴の条件づけ、一律の断り、記録の欠落

障害のある利用者に、家族の同伴をサービスの利用条件にしてしまう例は、ガイドラインが不当な差別的取扱いの例に挙げています。本人の意思を確かめず、家族とだけ話を進めることも避けます。

配慮を断るときに、理由を伝えず、代わりの方法も示さずに終えると、建設的な対話を求める趣旨から外れます。検討した要素と伝えた理由を、対応票に残しておくと、後から説明できます(運用の提案)。

この記事は、法の条文とガイドラインを整理したもので、個別の対応が法に適合するかを判断するものではありません。判断に迷うときは、主務大臣の相談窓口や、お住まいの地域の障害者差別の相談窓口へ確認してください。

次に読む記事

障害のある利用者の重要事項の説明は、訪問介護の重要事項説明書:記載事項と交付・同意で読めます。

障害福祉の訪問サービスとの関係は、訪問介護の重度訪問介護・共生型との違い:指定主体・人員基準・併設の流れで読めます。

従業員側の障害者雇用は、訪問介護の障害者雇用義務:法定雇用率2.7%と37.5人以上の数え方(令和8年7月〜)で別に整理しています。

実行チェックリスト

次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。

  1. 障害のある利用者や家族から配慮の申出を受けたら、申出の日・内容・伝えられた方法を対応票に書き、本人の希望する方法で話を聞く
  2. 申出の内容ごとに、重要事項の説明方法の変更や連絡手段の追加など、事業所が対応できる案を出し、本人と話し合って決める
  3. 対応が難しいときは、事務・事業への影響、実現可能性、費用・負担、事業規模、財務状況の5つの要素で検討した内容を記録し、理由を本人に丁寧に説明して代わりの案を提案する
  4. 苦情や相談の窓口を障害特性に応じた複数の方法で案内し、職員が障害者差別解消法の趣旨を学ぶ機会を年間の研修計画に入れる

一次資料

個別地域の運用は指定権者で確認してください。

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