運営 / 更新 2026-10-21
利用者にMRSAなど薬剤耐性菌の保菌が分かったとき:標準予防策・手洗い・提供を断れない点
利用者にMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの薬剤耐性菌の保菌や感染が分かったときも、訪問介護は保菌を理由にサービスの提供を断れません。厚生労働省の「介護現場における感染対策の手引き 第3版」(令和5年9月)は、誰が保菌していても広がりを防げるよう、標準予防策を徹底し、ケアの後は石けんと流水で手を洗うことを求めています。このページは、薬剤耐性菌の特徴、ケアのときの備え、受診や他のサービスへの情報提供の考え方を手引きで確認し、感染症全般の手順は訪問介護の感染対策の手引きで扱っています。
薬剤耐性菌とは:抗菌薬が効かなくなった菌で、保菌だけでは無症状のことが多い
手引きは、薬剤耐性菌の特徴を4点で示しています。抗生物質(抗菌薬)が効かないこと、環境中に存在する場合もあること、接触感染によって伝播し介護者が広げる可能性もあること、アルコール等の通常用いられる消毒薬が有効であることです。介護施設で特に注意が必要な菌は、主に接触感染する薬剤耐性菌とされています。
薬剤耐性菌の多くは、黄色ブドウ球菌や大腸菌のように誰でも体内に持っているような菌が耐性化したものです。病原性が強くなったわけではないため、保菌しているだけでは無症状で健康被害もなく、長期にわたり保菌している場合もあるとされています。代表的なものとして、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)やMDRP(多剤耐性緑膿菌)が挙げられています。
ただし、いったん薬剤耐性菌によって感染症を起こすと治療が難しくなることがあります。そのため、保菌者から他の人へ広がらないよう、適切な感染対策が求められるとされています。保菌しているかどうか、感染症として治療が必要かどうかの判断は、医師に確認する事項です。
この記事で決めること
訪問介護員やサービス提供責任者が、利用者にMRSAなどの薬剤耐性菌の保菌や感染が分かったときに、保菌を理由にサービスの提供を断れないこと、標準予防策と石けんと流水の手洗い、おむつ交換など排泄物を扱うときの手袋とエプロン、受診や他のサービスへの情報提供の考え方を、厚生労働省の感染対策の手引き第3版で確認するための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、薬剤耐性菌の保菌が分かった利用者への対応メモ(分かった日と伝えた人・ケアの種類ごとの手袋とエプロンの使い分け・手洗いの手順・受診や他のサービスへ伝える内容の記録欄)を作成できる状態を目指します。
サービスの提供は断れない:保菌を理由にした提供拒否はできない
手引きは、薬剤耐性菌の保菌等を理由としてサービス提供を拒否することはできないと明記しています。職員研修の章でも、結核の既往や服薬中であること、薬剤耐性菌の保菌等を理由としてサービス提供を拒否することはできないと書かれています。
感染症の既往等がある人にサービスを提供する場合は、ケアを提供する職員に、一般的な感染症予防に関する知識に加えて、該当する感染症についての正しい知識や対応方法を周知することが必要とされています。保菌を知った職員が不安のあまり訪問をためらうことがないよう、担当する職員全員で手順を共有します(本サイトの整理例です)。
提供拒否が許される正当な理由の整理と、提供が難しいときのケアマネジャーへの連絡や紹介の流れは、訪問介護の提供拒否禁止と提供困難時の紹介・連絡で確認できます。
ケアのときの備え:標準予防策と石けんと流水の手洗い、排泄物を扱う作業は手袋とエプロン
ケアのときは、標準予防策(スタンダード・プリコーション)を徹底し、ケアの後は石けんと流水で手を洗うことが基本です。手引きは、薬剤耐性菌は主に分泌物や排泄物等に含まれていることが多く、特におむつの交換等、排泄物を扱う作業は菌を伝播するきっかけとなりやすいため、手袋やエプロン等の装着が必要としています。使用した物品(おむつ、清拭布等)の廃棄までの処理と、ケア後の石けんと流水による手洗いも重要とされています。
接触感染の予防策として、手引きは、こまめな手指衛生、ケア時の手袋の着用、使用後の手袋を速やかに捨てて汚れた手袋で周辺を触らないこと、手袋を脱いだ後の手指衛生を挙げています。利用者の膿、血液、嘔吐物、排泄物等を扱う場合には、長袖ガウンを着用し、使用後は速やかに捨てることとされています。
手引きは、培養検査をしなければ誰が保菌しているかは分からないため、基本的には誰が保菌していても広がりを防げるような標準予防策の考え方に基づいた対応が求められるとしています。ただし、環境中に拡がりやすい薬剤耐性菌もあり、保菌者であっても標準予防策に加えて接触予防策が必要な場合があるとされています。どちらの対応になるかは、利用者宅の状況とあわせて医師や看護職員、保健所などに確認する事項です。
受診や他のサービスへの情報提供:検出歴を伝える
受診や他のサービスの利用の際には、薬剤耐性菌の検出歴を伝えることが重要とされています。手引きは、発症している、または保菌・定着が判明している入所者には慎重な標準予防策と接触予防策が必要になるため、医療機関への受診や他の介護施設への転所の際等に、検出歴の情報提供を行うことも重要としています。ここでの保菌とは病原体を体内に保有していること、定着とは細菌が粘膜の表面にいるが菌量が少なく炎症反応が認められない状態をいいます。
手引きの記載は入所者の受診や転所が前提のため、訪問介護では、通院の付き添いや、デイサービス、ショートステイなど他の事業所のサービスを併用する場面に置き換えて読みます。誰に、どこまで伝えるかは、本人の意向や事業所の決まりと合わせて決め、伝えた内容と相手をサービス提供記録の考え方に沿って残します(本サイトの整理例です)。連絡の流れは訪問介護のサービス提供・ケアマネ連携・月次報告と合わせて確認できます。
事業所で決めておくこと
ケアの種類ごとの手袋とエプロンの使い分け、手洗いの手順、使用した物品の廃棄の方法、受診や他のサービスへ伝える内容を、訪問する職員全員が知っておくと動きやすくなります(本サイトの整理例で、手引きが様式を定めているわけではありません)。同じ接触感染で広がる疥癬が疑われるときは利用者に疥癬が疑われるときで、排泄物の処理が中心になる感染性胃腸炎は利用者に嘔吐・下痢が疑われるときで整理しています。
個別の利用者が薬剤耐性菌を保菌しているかどうか、どの予防策が必要か、治療が要るかどうかは、医師などの専門職に確認する事項です。このページの内容は手引きの記載の要約であり、個別の事案への助言ではありません。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- 保菌や感染が分かったことを、サービス提供責任者とケアを担当する全職員で共有し、保菌を理由にサービスの提供を断れないことを確認する
- 全員が同じ手順でケアできるよう、おむつ交換などの排泄物を扱う作業では手袋とエプロンを着け、ケアの後は石けんと流水で手を洗う手順を決める
- 膿や排泄物などを扱うときの長袖ガウンの使い方や、使用した物品の廃棄の方法を、利用者宅の状況に合わせて決めておく
- 受診や他のサービスの利用の際に薬剤耐性菌の検出歴を伝える範囲と相手を、本人の意向と事業所の決まりに合わせて決め、記録に残す
関連ガイドで計画をつなぐ
隣接する判断をつなぎ、記事単体で計画を止めないためのガイドです。
よくある質問
迷いやすい範囲と確認順を、質問ごとに整理します。
利用者がMRSAの保菌者だと分かったら、訪問介護はサービスを断れますか?
手引き第3版は、薬剤耐性菌の保菌等を理由としてサービス提供を拒否することはできないとしています。保菌しているだけでは多くの場合無症状で、健康被害もないとされています。提供拒否の一般的な決まりは「訪問介護の提供拒否禁止と提供困難時の紹介・連絡」で確認できます。
薬剤耐性菌の利用者のケアでは、アルコール消毒だけで足りますか?
手引き第3版は、ケアを行った際には石けんと流水による手洗いが必要としています。薬剤耐性菌にはアルコール等の通常用いられる消毒薬が有効とも書かれており、手指衛生の方法は利用者宅の状況に合わせて事業所で決めます。特におむつ交換など排泄物を扱う作業は、手袋やエプロンの着用が必要とされています。
誰が薬剤耐性菌を保菌しているか分からないときは、どう動きますか?
手引き第3版は、培養検査をしなければ誰が保菌しているかは分からないため、基本的には誰が保菌していても広がりを防げる標準予防策の考え方に基づいた対応が求められるとしています。ただし、環境中に拡がりやすい薬剤耐性菌もあり、保菌者であっても標準予防策に加えて接触予防策が必要な場合があるとされています。
一次資料
個別地域の運用は指定権者で確認してください。
- 厚生労働省「介護現場における感染対策の手引き 第3版(令和5年9月)」(標準予防策(p.5・p.22〜27)、手指衛生の5つのタイミング(p.24)、訪問系の注意(p.17)、嘔吐物・排泄物の処理(p.45)、感染症発生時の対応フロー(訪問系・p.56〜57)、報告の基準(p.62)、職員の健康管理(入職時の確認・就業停止・健康診断・ワクチンによる予防・職業感染対策、p.51〜53)、疥癬(p.110〜113)、感染経路別の予防策(空気感染・飛沫感染・接触感染、p.10〜13)、利用者の健康管理(結核の排菌と治療・感染を疑う症状、p.28〜29)、誤嚥性肺炎(p.114〜115)、感染性胃腸炎・ノロウイルス(p.97〜99)、インフルエンザ(p.94〜96)、薬剤耐性菌感染症(p.117〜118)、研修の章の提供拒否に関する記載(p.40)、帯状疱疹(p.119))(確認日 2026-10-21)