事業計画 / 更新 2026-10-29
有料老人ホームの事業計画書に書く項目:初期総投資額・30年以上の収支計画・前払金・職員配置
有料老人ホームの事業計画書に決まった様式はなく、厚生労働省の「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」が、事業収支計画に何を書くかの目安を示しています。初期総投資額の9つの費用、30年以上の資金収支計画と損益計画、前払金の想定居住期間、職員の配置が柱です。この記事は、指針の本文を2026年10月29日に確かめた範囲で、事業計画書に書く項目を整理します。
事業計画書の様式は決まっていない:標準指導指針の「事業収支計画」が目安になる
老人福祉法第29条第1項の有料老人ホームについて、厚生労働省は設置・運営の標準となる指導指針を定めています。指針は14の項目で構成され、第10が「事業収支計画」です。事業計画書という名前の様式は、指針の本文には出てきません。
事業計画書の様式や添付書類は、設置予定地の都道府県(指定都市・中核市は市)の案内で確かめてください。
指針は、有料老人ホームの事業を計画するときの基本姿勢として、入居者の福祉を重視しながら、安定的かつ継続的な事業運営を確保することを挙げています。事業計画書は、この「継続できるか」を数字で示す書類にあたります。届出事項のうち「事業開始に必要な資金の額と調達方法」と「長期の収支計画」は、有料老人ホームの設置届出の16項目に入っています。
この記事で決めること
有料老人ホーム(住宅型・介護付き)の開設を考える事業者が、事業計画書に書く項目(定員・入居一時金と月額利用料の設定・人員計画・収支の見立て)を、厚生労働省の標準指導指針の本文で確かめ、設置の届出と特定施設の指定の流れにつなげたい。ための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、有料老人ホームの事業計画書の項目表(需要の根拠、初期総投資額の9費用、30年以上の資金収支計画と見直し予定、利用料と前払金の算定、職員の配置、開設までの順番)を作成できる状態を目指します。
事業計画書に書く項目:指針の第10・第11・第7を並べた一覧
指針のうち、事業計画書の項目にそのまま使えるのは、第10の事業収支計画、第11の利用料等、第7の職員の配置の3か所です。下の表は、指針の本文を項目に分けて並べたものです。表の右の列は指針の記載で、数字や基準を足してはいません。
| 項目 | 指針の記載 | 指針の箇所 |
|---|---|---|
| 需要の見通し | 地域特性・需要動向などの市場分析と、計画が具体化した段階の市場調査で、相当数の入居が見込まれること | 第10の(1) |
| 初期総投資額 | 調査関係費・土地関係費・建築関係費・募集関係費・開業準備関係費・公共負担金・租税公課・期中金利・予備費の9つを詳細に検討して積み上げ、必要な資金を適切な方法で調達し、主たる取引金融機関などを確保すること | 第10の(2) |
| 資金収支計画・損益計画 | 最低30年以上の長期の計画を作り、少なくとも3年ごとに見直すこと。借入金の返済、募集計画、入退去率や要介護者発生率、人件費・修繕費の変動、資金残高を見込むこと | 第10の(3) |
| 経理の区分 | 有料老人ホーム以外の事業もしている場合は、経理・会計を区分し、他の事業に流用しないこと | 第10の(4) |
| 利用料の設定 | 家賃・敷金・サービス費用の算定の考え方、前払金を受け取る場合の算定根拠と保全措置 | 第11 |
| 職員の配置 | 入居者の数とサービス内容に応じた職員の種類と、夜間・緊急時に対応できる数 | 第7の(1) |
収支の見立て:30年以上の計画、3年ごとの見直し、前払金の償却年数
第10の(3)は、資金収支計画と損益計画を、最低30年以上の長期で作り、少なくとも3年ごとに見直すよう求めています。ほかにも、入居時の平均年齢、男女比、単身入居率、入退去率、入居者数、要介護者発生率の長期推計を勘案すること、人件費・物件費などの変動と建物の修繕費を適切に見込むこと、常に適正な資金残高があることが並んでいます。
前払金を受け取る場合、前払金の償却年数は、入居者の終身にわたる居住について平均的な余命などを勘案して想定される期間(想定居住期間)とすると、第10の(3)に書かれています。想定居住期間は、第11の前払金の算定にも使われるため、収支計画と利用料の設定で同じ数字をそろえる必要があります。
指針は、収入の額や利益の水準の目安を示していません。入居率や月額利用料の水準は、設置予定地の需要と近傍の家賃で決まるため、事業計画書の数字は、事業者が市場調査で根拠を持って決めることになります。このサイトでは、サ高住・有料老人ホーム等への訪問介護の収支の実態を訪問介護の収支差率に整理していますが、ホームの運営そのものの収支ではありません。
入居一時金と月額利用料の設定:家賃・サービス費用・前払金の算定の考え方
第11の(1)は、家賃を、整備に要した費用、修繕費、管理事務費、地代に相当する額などを基礎に合理的に算定し、近傍の同種の住宅の家賃から算定される額を大幅に上回らないものとするよう求めています。敷金は6か月分を超えないこととし、退去時に原状回復費用を除いて全額返還します。サービス費用は、食費、介護費用その他の運営費などを基礎とした適切な額です。
前払金(入居一時金など、終身にわたって受け取る家賃やサービス費用を一括で受け取る方式)の算定は、想定居住期間を設定したうえで、次のいずれかを基本とすると書かれています。期間の定めがある契約は「1か月分の家賃またはサービス費用×契約期間(月数)」、終身にわたる契約は「1か月分の家賃またはサービス費用×想定居住期間(月数)+想定居住期間を超えて契約が継続する場合に備えて受け取る額」です。後者の上乗せ額は、具体的な根拠で算出した額とすることになっています。
サービス費用の前払金は、想定居住期間、開設後の経過年数に応じた要介護発生率、介護必要期間、職員配置などを勘案した合理的な積算方法で出します。ただし、介護費用のうち介護保険の利用者負担分を前払金で受け取ることは、利用者負担分が不明確になるため不適当とされています。多額の前払金で毎月の支払を一切なくし、生涯の生活を保証する終身保証契約も、原則として好ましくないとされています。
前払金には、算定根拠を書面で明示することと、厚生労働大臣が定める保全措置(平成18年厚生労働省告示第266号)を講じることが必要です。前払金の内金は前払金の20%以内とし、残りは引渡し日前の合理的な期日以降に受け取ります(第12の(1))。保全措置と返還の義務は、有料老人ホームの設置届出で老人福祉法の条文にそって整理しています。
人員計画と定員:職員の種類、夜間・緊急時の人数、居室の広さ
第7の(1)は、入居者の数とサービス内容に応じて、管理者、生活相談員、栄養士、調理員を置くよう求めています。介護サービスを提供する有料老人ホームでは、これに加えて、介護職員・看護職員(直接処遇職員)、入居者の健康管理に必要な数の看護職員、機能訓練指導員を、サービスの内容に応じて配置します。夜間の介護と緊急時に対応できる数の職員を、入居者の実態に即して置くことも求められています。
指針の第7は、配置すべき職員の人数や比率を定めていません。
第13は、介護の職員体制を「1.5:1以上」「2:1以上」「2.5:1以上」と表示するホームに、介護に関わる職員の割合を年度ごとに算定し、表示と実態にずれがないかを自ら検証するよう求めています。介護付き(特定施設入居者生活介護の指定を受ける)の場合の看護・介護職員の基準は、特定施設入居者生活介護の指定基準で、条文にそって確認できます。人件費を収支計画に入れるときは、この基準を下限として、夜間の体制を上乗せして見積もることになります。
定員は、居室数と一緒に届出事項になります。
居室の広さは、第5の(9)が、一般居室・介護居室・一時介護室を個室とし、入居者1人当たり13平方メートル以上と定めています。建物は、建築基準法の耐火建築物または準耐火建築物とします。事業計画書の定員は、この床面積の基準と建築計画から逆算した数になります。
計画から開設までの順番:事前協議、届出、入居募集、介護付きの指定
第2の基本的事項は、開発許可や建築許可の申請の前(開発許可の対象外なら建築確認の申請の前)から、地元の市町村と都道府県で十分な事前協議をすることを求めています。建築確認の後は速やかに、設置の前に、都道府県知事(指定都市・中核市は市長)へ老人福祉法第29条第1項の届出をします。入居の募集は、届出の後に行います。
サービス付き高齢者向け住宅の登録を受けている場合は、登録の後です。
介護付きにするには、これとは別に、特定施設入居者生活介護の指定を受けます。指定を受けた有料老人ホームは、指針のほかに、指定居宅サービス等の基準などのうち該当する基準を守ることになっています。指定を受けた場合の収入は、特定施設入居者生活介護費の単位数で確かめられます。
サービス付き高齢者向け住宅の登録を受けているホームには、指針の第3(設置者)・第4(立地条件)・第5(規模及び構造設備)・第6(既存建築物等の活用)・第10(事業収支計画)は適用されず、高齢者の居住の安定確保に関する法律第7条第1項の登録基準によるとされています(第2の(10))。登録の基準はサービス付き高齢者向け住宅の登録基準にあります。
この記事で確認した範囲と、次に知りたいこと
確認したのは、厚生労働省の標準指導指針の本文のうち、第2・第5・第7・第10・第11・第12の一部です。確認していないのは、都道府県ごとの指導指針と事前協議の手順、事業計画書の様式、費用や職員数の相場、指針の第3・第4・第6・第8・第9・第13・第14の細目です。この記事は、個別の計画が指針に適合しているかを判断するものではありません。
次に知りたいことは三つあります。設置の届出事項と開設後の義務は有料老人ホームの設置届出に、介護付きにする場合の基準は特定施設入居者生活介護の指定基準に、サ高住として登録する場合はサービス付き高齢者向け住宅の登録基準にまとめています。訪問介護の事業者がホームの入居者へサービスする場合の減算は同一建物減算で確認できます。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- 標準指導指針の第10・第11・第7を縦に並べ、自社の事業計画書のどの箇所に当たるかを横に書き込んで、抜けている項目がないかを確かめる
- 初期総投資額を調査・土地・建築・募集・開業準備・公共負担金・租税公課・期中金利・予備費の9費用に分け、調達方法と主たる取引金融機関を書く
- 資金収支計画と損益計画を30年以上で作り、入退去率・要介護者発生率・人件費・修繕費の前提と、3年ごとの見直し日を書く
- 家賃・サービス費用・前払金の算定式と想定居住期間を、収支計画と同じ数字にそろえ、保全措置と返還の取り決めを確かめる。設置予定地の都道府県(指定都市・中核市は市)に、事前協議の時期、届出の様式、事業計画書の添付書類も確認する
関連ガイドで計画をつなぐ
隣接する判断をつなぎ、記事単体で計画を止めないためのガイドです。
よくある質問
迷いやすい範囲と確認順を、質問ごとに整理します。
有料老人ホームの事業計画書に決まった様式はありますか?
厚生労働省の標準指導指針の本文に、事業計画書という名前の様式は出てきません。指針の第10「事業収支計画」が、書く内容の目安です。様式や添付書類は、設置予定地の都道府県(指定都市・中核市は市)の案内で確かめてください。
収支計画は何年分を作りますか?
指針の第10の(3)は、資金収支計画と損益計画を最低30年以上の長期で作り、少なくとも3年ごとに見直すよう求めています。前払金の償却年数は、入居者の終身にわたる居住について想定される期間(想定居住期間)とします。
入居一時金(前払金)はどう算定しますか?
指針の第11の(2)は、想定居住期間を設定したうえで、期間の定めがある契約は「1か月分の家賃またはサービス費用×契約期間(月数)」、終身にわたる契約は「1か月分×想定居住期間(月数)+想定居住期間を超えて契約が継続する場合に備えて受け取る額」を基本としています。算定根拠は書面で明示し、保全措置を講じます。
一次資料
個別地域の運用は指定権者で確認してください。
- 厚生労働省「有料老人ホーム設置運営標準指導指針(事業収支計画・利用料等・職員の配置・規模及び構造設備)」(第2 基本的事項(4)(6)(7)(8)(10)、第5(9)、第7(1)、第10 事業収支計画(1)〜(4)、第11 利用料等(1)(2)、第12(1))(確認日 2026-10-29)