運営 / 更新 2026-10-25
訪問介護員が感染症にかかったとき:感染症法の就業制限・安衛則の就業禁止と休業手当
訪問介護員が感染症にかかったとき、事業所が休ませるかどうかを自由に決められるとは限りません。法律には、感染症法第18条の就業制限と、労働安全衛生規則第61条の就業禁止という、働いてはいけない場面が2つあります。この記事は、2つの条文の対象と違い、休ませるときの休業手当の考え方を、条文と厚生労働省の手引きで確かめた範囲で整理し、個別の感染症が当てはまるかは医師や保健所に確かめるよう案内します。
働けなくなる法律上の場面は2つ:知事の通知による就業制限と、事業者の就業禁止
1つ目は、感染症法第18条の就業制限です。都道府県知事が、一類感染症の患者、または二類感染症、三類感染症、新型インフルエンザ等感染症の患者もしくは無症状病原体保有者について届出を受け、まん延を防ぐために必要と認めたときは、本人に書面で通知できます。通知を受けた人は、感染症ごとに厚生労働省令で定める業務に、定める期間従事してはなりません(第1項・第2項)。
2つ目は、労働安全衛生規則第61条の就業禁止です。事業者は、病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者の就業を禁止しなければならず、伝染予防の措置をした場合はこの限りではありません。就業を禁止しようとするときは、あらかじめ産業医その他専門の医師の意見をきかなければなりません(第1項第1号・第2項)。
前者は都道府県知事の通知が出発点で、本人が通知を受けて初めて業務に就けなくなります。後者は事業者が判断して禁止する義務で、医師の意見を聞いたうえで決めます。どちらも訪問介護に限った条文ではありません。
この記事で決めること
訪問介護事業所の管理者が、訪問介護員が感染症にかかった(疑われる)ときに、法律上働かせてはいけない場合があるか、どの条文が根拠か、休ませたときの休業手当をどう考えるかを知りたい人向け。ための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、訪問介護員の感染症時の就業判断メモ(1枚):保健所の就業制限の通知の有無、産業医または医師の意見、休ませる根拠、休業の扱いを作成できる状態を目指します。
感染症法の就業制限は、感染症ごとに業務と期間が決まっている
就業制限の対象になる業務は、感染症法施行規則第11条第2項が感染症の区分ごとに定めています。区分ごとの業務は、下の表のとおりです。
期間は同条第3項にあります。結核、重症急性呼吸器症候群、中東呼吸器症候群、特定鳥インフルエンザは、病原体を保有しなくなるまで、または症状が消失するまでです。それ以外の感染症は、病原体を保有しなくなるまでです。
対象でなくなったかの確認は、本人または保護者が都道府県知事に求められます(法第18条第3項)。
訪問介護員の仕事のどこが制限される業務に当たるかは、条文の文言からは決め切れません。身体介護や調理が制限される業務に当たり得ますが、実際に当たるかは、通知書面に書かれた業務と期間と、書面にある担当窓口(保健所など)への確認で判断してください。
| 感染症の区分(例) | 制限される業務 | 期間の考え方(同条第3項) |
|---|---|---|
| エボラ出血熱など一類感染症の一部 | 飲食物に直接接触する業務、他者の身体に直接接触する業務 | 病原体を保有しなくなるまで |
| 結核 | 接客業その他の多数の者に接触する業務 | 病原体を保有しなくなるまで、または症状が消失するまで |
| ジフテリア、新型インフルエンザ等感染症など | 飲食物に直接接触する業務、接客業その他の多数の者に接触する業務 | 病原体を保有しなくなるまで(重症急性呼吸器症候群などは症状消失までも可) |
| 上記以外の一類から三類感染症 | 飲食物に直接接触する業務 | 病原体を保有しなくなるまで |
季節性インフルエンザは、法第18条の就業制限の対象に入っていない
法第6条第6項第1号は、インフルエンザ(鳥インフルエンザと新型インフルエンザ等感染症を除く)を五類感染症としています。法第18条第1項が就業制限の通知の対象にするのは、一類、二類、三類、新型インフルエンザ等感染症で、五類感染症は含まれません。このため、季節性インフルエンザで知事から就業制限の通知を受けることは、条文上はありません。
対象外であることは、出勤させてよいという意味ではありません。厚生労働省の「介護現場における感染対策の手引き 第3版」は、職員が感染症を疑う症状を呈したときは、施設等の実情を踏まえて、感染力がなくなるまで就業停止の検討をする必要があるとしています。感染した状態での就業は病原体を利用者や他の職員に広げるリスクが極めて高く、手引きは就業の停止を就業規則と整合させるよう留意すべきだとも書いています。
インフルエンザの休業期間の目安と、事業所での決め方は利用者にインフルエンザが疑われるときで扱っています。感染症にかかったときの就業停止と予防接種の考え方は予防接種・体調不良時の就業停止・体液に触れたときの受診にあります。
事業者の就業禁止(安衛則第61条)では、医師の意見を聞いてから決める
第61条第1項第1号の「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病」に、どの感染症が当たるかは、条文に一覧がありません。個別の疾病が当たるかは、産業医その他専門の医師の意見を聞いて決めるのが条文の仕組みです(第2項)。この記事では、特定の疾病が当たるとは書きません。
ただし書きにより、伝染予防の措置をした場合は就業を禁止しなくてよいとされています。どの措置があれば足りるかも、条文からは決まらないため、医師の意見に書いてもらうと、あとで説明しやすくなります。産業医を置かない小規模な事業所では、職員のかかりつけ医など専門の医師に意見を聞き、聞いた日と内容を記録します。
手引きは、体調がすぐれないときに躊躇なく相談や休養ができる体制にしておくことが重要だとも書いています。職員の側から報告しやすいように、事業所の中で連絡先と報告の流れを決めておくと、就業を判断する材料がそろいます。
休ませたときの休業手当:条文は「使用者の責に帰すべき事由」
労働基準法第26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合に、使用者は休業期間中、その労働者に平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならないと定めています。休業手当の計算に使う平均賃金は、平均賃金の計算で確認できます。
感染症にかかった訪問介護員を休ませる場合に、これが「使用者の責に帰すべき事由」に当たるかどうかは、条文だけでは決まりません。法第18条の就業制限による休業と、事業者が判断して休ませる休業とで扱いが分かれるかを示した行政の解釈は、この記事では原文を確認できなかったため、書きません。
年次有給休暇で処理する、欠勤として扱う、休業手当を支払うといった扱いは、就業規則の定めと事実関係で変わります。迷うときは、労働基準監督署または社会保険労務士に確かめ、確かめた日と回答を記録してください。就業規則の整え方は就業規則と36協定、年次有給休暇の管理は年次有給休暇の管理にあります。
資料の範囲と、事業所で決めておくこと
感染症法第6条・第18条と同法施行規則第11条、労働安全衛生規則第61条、労働基準法第26条は、2026年10月25日にe-Govで確認しました。厚生労働省の手引き第3版は、職員の健康管理(51ページ)を同日に確認しています。個別の感染症が就業禁止に当たるかの線引き、休業手当に関する行政の解釈、自治体ごとの運用は確認しておらず、書いていません。
事業所で決めておくと動きやすいのは、次の3点です。職員が診断を受けたときの報告先と報告の期限、保健所から通知が来た場合の勤務の外し方、休ませる期間の給与の扱いです。決めた内容は就業規則または運用の文書に残し、職員に周知します。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- 訪問介護員から感染症の診断または疑いの報告を受けたら、診断名、診断日、医師の指示、保健所や都道府県からの通知書面の有無を聞き取って記録する
- 診断名が感染症法の一類から三類または新型インフルエンザ等感染症に当たり、保健所から就業制限の通知を受けているかを確かめ、通知があれば書面に書かれた業務と期間を守って勤務を外す
- 通知がない場合は、労働安全衛生規則第61条の就業禁止に当たるかを産業医または専門の医師に意見を聞いて判断し、意見と判断の日付を記録する
- 休ませる期間の扱い(欠勤、年次有給休暇、休業手当の要否)を就業規則に照らして決め、迷う点は労働基準監督署または社会保険労務士に確かめた日と回答を残す
一次資料
個別地域の運用は指定権者で確認してください。
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「労働基準法(第12条 平均賃金・第26条 休業手当)」(労働基準法第12条第1項・第26条)(確認日 2026-10-13)
- 厚生労働省「介護現場における感染対策の手引き 第3版(令和5年9月)」(標準予防策(p.5・p.22〜27)、手指衛生の5つのタイミング(p.24)、訪問系の注意(p.17)、嘔吐物・排泄物の処理(p.45)、感染症発生時の対応フロー(訪問系・p.56〜57)、報告の基準(p.62)、職員の健康管理(入職時の確認・就業停止・健康診断・ワクチンによる予防・職業感染対策、p.51〜53)、疥癬(p.110〜113)、感染経路別の予防策(空気感染・飛沫感染・接触感染、p.10〜13)、利用者の健康管理(結核の排菌と治療・感染を疑う症状、p.28〜29)、誤嚥性肺炎(p.114〜115)、感染性胃腸炎・ノロウイルス(p.97〜99)、インフルエンザ(p.94〜96)、薬剤耐性菌感染症(p.117〜118)、研修の章の提供拒否に関する記載(p.40)、帯状疱疹(p.119))(確認日 2026-10-21)
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 第6条・第18条(就業制限)、同法施行規則 第11条」(法第18条第1項・第2項・第3項、法第6条第6項第1号、施行規則第11条第1項・第2項・第3項(施行規則は https://laws.e-gov.go.jp/law/410M50000100099))(確認日 2026-10-25)
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「労働安全衛生規則 第61条(就業禁止)」(第61条第1項・第2項)(確認日 2026-10-25)