運営 / 更新 2026-10-17

訪問介護の賃金請求権の消滅時効(当分の間3年)と付加金:未払い賃金の請求期間

訪問介護の事業所では、移動時間や報告書の作成時間が賃金に入っていなかったと、退職後に請求を受けることがあります。そのとき気になるのは、何年前の分まで請求されるかです。この記事は、労働基準法の第114条・第115条・附則第143条をe-Gov法令検索で2026-10-17に確認し、賃金請求権の時効、付加金、請求になりやすい項目、事業所の点検の期間を整理します(個別の請求に時効が成立するかは、弁護士や労働基準監督署に確認してください)。

事務机に置かれたノートパソコンと書類・手帳の写真

賃金請求権の時効:本則は5年、当分の間は3年

賃金請求権の時効は、本則が5年で、当分の間は3年です。労働基準法第115条は、この法律の規定による賃金の請求権を、行使することができる時から5年間行わない場合に時効で消滅すると定めています。ただし、附則第143条第3項が、当分の間、賃金(退職手当を除く)は3年間、退職手当は5年間と読み替えると定めています。

2026-10-17に確認した現行の条文では、ヘルパーの毎月の賃金や割増賃金の請求権の時効は3年で、退職手当の請求権だけが5年です。「当分の間」という書き方のため、将来この期間が変わることがあります。点検の期間を決めるときは、その時点の条文を確かめてください。

時効を数え始める日や、時効の進行を止める手続き、改正法の適用が始まった日は、この記事では扱いません。厚生労働省の解説ページを取得できなかったため、条文に書かれている「行使することができる時から」という表現までにとどめています。

この記事で決めること

訪問介護事業所の経営者や管理者が、ヘルパーの移動時間・割増賃金・休業手当などの未払いが請求される期間(賃金請求権の時効)と付加金のリスクを把握し、賃金台帳等の保存と点検の期間を決めるための考え方と確認順を整理します。

読み終えたら、賃金の未払い点検表(点検する期間、賃金に入れる時間の種類、点検の頻度、賃金台帳等の保存期間)を作成できる状態を目指します。

付加金:未払金と同じ額の支払を命じられることがある

付加金は、裁判所が未払金と同じ額の支払を使用者に命じられる制度です。第114条は、第20条(解雇予告手当)、第26条(休業手当)、第37条(割増賃金)に違反した使用者と、第39条第9項の年次有給休暇の賃金を支払わなかった使用者に対し、労働者の請求により、未払金のほか同一額の付加金の支払を命じることができると定めています。

付加金の請求は、違反のあった時から5年以内にしなければなりません。ただし、附則第143条第2項により、当分の間は3年以内に読み替えられます。付加金を命じるかどうかは裁判所が決めるもので、請求があれば必ず命じられるわけではありません。

通常の月給や時給そのものの未払いは、第114条が挙げる条には入っていません。付加金の対象になるのは、解雇予告手当、休業手当、割増賃金、年次有給休暇の賃金の4つです。

賃金に関わる請求の期間(2026-10-17に確認した現行の条文)
請求の種類根拠期間
賃金(退職手当を除く)の請求権第115条、附則第143条第3項行使することができる時から当分の間3年(本則は5年)
退職手当の請求権第115条、附則第143条第3項行使することができる時から5年
付加金の請求第114条、附則第143条第2項違反のあった時から当分の間3年以内(本則は5年以内)

訪問介護で未払いの請求になりやすい項目

移動時間や報告書の作成時間などは、労働時間に当たる場合は賃金の対象になります。厚生労働省の通達「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日基発第0827001号)は、事業場と利用者宅の間、利用者宅どうしの間を通常の移動に要する時間程度で移動する時間は、労働時間に当たると考えられるとしています。

業務報告書の作成時間は、介護保険制度や業務規定で義務付けられ、使用者の指揮監督に基づいて事業場や利用者宅で作成するときは労働時間に当たります。待機時間は、使用者が急な需要に備えて待機を命じ、自由に使えないときに労働時間です。研修時間は、使用者の明示的な指示があるとき、または参加しないと不利益な取扱いがあるなど実質的に強制されているときに労働時間です。

この通達は、賃金はいかなる労働時間についても支払われなければならないとし、労働時間に応じて賃金を計算する場合は、訪問介護の業務に直接従事する時間だけでなく、移動時間などを通算した時間数に応じて計算するよう求めています。さらに、利用者の利用申込みの撤回を理由にヘルパーを休業させた場合は、勤務表で特定された後で、使用者の責めに帰すべき事由があれば休業手当の問題になるとしています。他の利用者宅での勤務など代替業務を検討して提供した場合は、支払いが不要になる整理です。

これらのうち、移動時間などの賃金が時間外や深夜に当たれば割増賃金(第37条)の、休業させた分は休業手当(第26条)の問題にもなり、付加金の対象に入ります。割増賃金の計算は訪問介護事業所の割増賃金:時間外・休日・深夜の割増率と、計算の基礎に入れない手当、休業手当は訪問介護の利用者キャンセルと休業手当:勤務表で特定された後の取消しと労基法第26条で読めます。

通達が労働時間と整理する時間と、請求になりやすい賃金
時間・場面通達の整理関わる賃金
利用者宅への移動通常の移動に要する時間程度なら労働時間と考えられる基本の賃金、時間外・深夜なら割増賃金
業務報告書の作成義務付けられ、指揮監督に基づくなら労働時間基本の賃金、時間外なら割増賃金
待機待機を命じられ自由に使えないなら労働時間基本の賃金、時間外なら割増賃金
研修明示的な指示、または実質的な強制があるなら労働時間基本の賃金、時間外なら割増賃金
利用申込みの撤回による休業勤務表で特定された後で、使用者の責めに帰すべき事由があれば休業手当の問題(代替業務を提供すれば不要)休業手当(付加金の対象)

事業所の備え:点検の期間と記録の保存

点検の期間は、時効が3年の間は直近3年分を目安にできます。ただし、退職手当の規定を設けている場合は5年、付加金は条文上の請求期間が別にあるため、点検の期間はこれらを含めて決めます(運用の提案)。

賃金台帳や労働者名簿、雇入れ・解雇・賃金その他の労働関係に関する重要な書類は、第109条で5年間の保存が義務付けられており、附則第143条第1項により当分の間は3年です。時効の期間と保存の期間がどちらも3年になるため、保存期間を過ぎた書類で後から払い漏れを確かめることは難しくなります。請求を受けたときに備え、勤務表と給与明細は保存期間より長く持っておくと確認がしやすくなります(運用の提案)。

保存と記録の様式は訪問介護の雇入れ時の労働条件明示と労働者名簿・賃金台帳(保存3年)、労働時間の記録は訪問介護員の労働時間の記録方法:始業・終業時刻の確認と、自己申告制で必要な措置で読めます。

起こりやすい失敗:移動時間の払い漏れ、保存期間後の確認不能

訪問ごとの単価だけを賃金にして、移動時間や報告書の作成時間を賃金に入れていない例は、通達が問題として挙げている典型です。この払い漏れは毎月積み重なり、退職時に3年分がまとめて請求の対象になりえます。

賃金台帳を保存期間の終わりに廃棄したあとで請求を受けると、勤務時間と支払額を示す書類が手元にありません。廃棄の時期は、時効の期間と請求を受けやすい時期(退職後)を考えて決めます(運用の提案)。

未払いが見つかったときに、事業所だけで金額を決めて精算すると、割増賃金や付加金の扱いを誤ることがあります。金額と期間を整理したうえで、弁護士や社会保険労務士、労働基準監督署の窓口に相談してください。

次に読む記事

移動時間の組み方は、訪問介護の訪問割り当てと移動時間の組み方で読めます。

移動時間を含めた時給と最低賃金の確認は、訪問介護員の時給と最低賃金:移動時間・記録時間を含めた時間額の確認方法で読めます。

賃金の払い方の原則は、訪問介護事業所の賃金の支払い方:5原則と、口座振込・天引きの条件で読めます。

この記事は、労働基準法の条文と厚生労働省の通達を整理したもので、個別の請求に時効が成立するかや付加金が命じられるかを判断するものではありません。判断に迷うときは、弁護士や労働基準監督署の窓口へ確認してください。

実行チェックリスト

次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。

  1. 賃金請求権の時効が当分の間3年であることを前提に、点検する期間を直近3年分とし、賃金台帳と労働者名簿の保存を5年(当分の間3年)以上にそろえる
  2. 移動時間・業務報告書の作成時間・待機時間・研修時間のうち労働時間になるものを一覧にし、それぞれが賃金の対象に入っているかを給与明細と勤務表で突き合わせる
  3. 割増賃金・休業手当・年次有給休暇の賃金について、付加金の対象になる条の違反がないかを、直近の月の計算で確かめる
  4. 未払いが見つかったときは、金額と期間を整理して、弁護士や社会保険労務士、労働基準監督署の窓口に相談する手順を決める

一次資料

個別地域の運用は指定権者で確認してください。

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