事業計画 / 更新 2026-09-22
訪問介護の損益分岐点(訪問件数)の計算式とシミュレーター前提
損益分岐点は、月間の収入と費用がちょうど等しくなる訪問件数です。本サイトのシミュレーターは「損益分岐の訪問件数」として、月間人件費・月次固定費・月次変動費の合計を、1訪問あたりの報酬額(1訪問あたり単位数×1単位単価)で割った件数を表示します。この記事では、その式と前提、読み違えやすい点、厚生労働省の調査で確認できる収支の水準を整理します。
シミュレーターが表示する損益分岐の訪問件数の式
結果欄の「損益分岐の訪問件数」は、計算の先頭月について、(月間人件費+月次固定費+月次変動費)を、(1訪問あたり単位数×現行版の1単位単価)で割り、小数点以下を切り上げた件数です。1訪問あたりの報酬額が0のときは「—」と表示されます。
月間人件費は、月給者の事業主負担額と、時給者の有給時間×事業主負担単価の合計です。月次固定費と月次変動費は、入力した月額をそのまま使います。分母は基本入力欄の1訪問あたり単位数と1単位単価の積で、サービス別の詳細行を入力していても同じです。
稼働率から訪問件数を見積もる場合の式は「訪問介護の稼働率の計算式と読み方」を参照してください。
下の表は計算の形を示す架空の数値例です。1単位単価10円は計算を分かりやすくするための値で、実際の地域区分の単価ではありません。
| 項目 | 例の値 | シミュレーターの入力欄・結果欄 |
|---|---|---|
| 月間人件費 | 2,000,000円 | 月給者の事業主負担額、時給者の有給時間・事業主負担単価 |
| 月次固定費 | 300,000円 | 月次固定費 |
| 月次変動費 | 100,000円 | 月次変動費 |
| 1訪問あたりの報酬額 | 4,000円(400単位×10円) | 1訪問あたり単位数、現行版の1単位単価 |
| 損益分岐の訪問件数 | 2,400,000円÷4,000円=600件 | 結果欄「損益分岐の訪問件数」 |
この記事で決めること
訪問介護の損益分岐点を月間の訪問件数で求める式と、本サイトのシミュレーターが表示する「損益分岐の訪問件数」の前提、厚生労働省調査の収支水準を確認するための考え方と確認順を整理します。
読み終えたら、損益分岐の訪問件数の前提確認メモを作成できる状態を目指します。
この式で読み違えやすい点
費用はすべて月額として扱われ、訪問件数に比例して増える費用はありません。移動費や消耗品費のように訪問1回ごとに増える費用を月額で入力していると、件数が増えたときの費用の増加が反映されません。訪問1回ごとに増える費用がある場合は、1訪問あたりの報酬額からその費用を引いた額で固定的な費用を割ることになり、損益分岐の件数は表示より多くなります。
人件費も、入力した有給時間と人数の月額です。訪問件数が増えても、入力を変えない限り人件費は変わりません。件数を増やす計画では、人員計画と提供時間の入力もあわせて見直します。
シミュレーターは加算・減算の金額を月間売上モデルに含めません。1訪問あたりの報酬額を入力するときに、平均的な加算を含めて考えるかどうかは、自社の前提として記録します。
シミュレーターの計算は基本報酬を基礎にしていて、加算・減算は含まれていません。何が含まれないかは訪問介護のシミュレーターが計算しない加算・減算の範囲で整理しています。
自事業所の損益分岐の訪問件数を計算する
月の固定費と、1訪問あたりの報酬額・変動費を入れると、月の費用をまかなうのに必要な訪問件数を計算します。
固定費と1訪問あたりの報酬額を入力すると、損益分岐の訪問件数を表示します。
リンク先では月次固定費だけが入力済みになります。訪問件数・単位数・1単位単価を入れると、損益分岐の件数や黒字化の月まで試算できます。
標準・保守・厳しい条件を並べて赤字月数を読む
損益分岐の式は、下振れの条件を並べるときにも使えます。上の架空の数値例(月間人件費2,000,000円、月次固定費300,000円、月次変動費100,000円)を土台に、訪問件数と1訪問あたり単位数だけを変えた3つの条件を比べたのが下の表です。件数の低下は、採用が遅れて受けられない、利用者が減る、キャンセルが増えるといった理由をまとめて置き換えたもので、どの理由かは区別していません。
この表の件数・単位数・自己資金は、式の動きを見るための本記事のモデル値で、公定値や実績ではありません。月額で入力した費用は件数が減っても減らないため、件数が減った分だけ営業利益がそのまま減ります。
赤字月数は、月の営業利益がマイナスの月がいくつ続くかを数えます。毎月同じ赤字が続くなら、自己資金÷月の赤字額で、資金が持つ月数のおおよそが分かります。たとえば自己資金3,000,000円なら、保守は約11か月、厳しい条件は約3か月です。
この計算には、入金の遅れ、採用や開業前の費用、返戻による未回収を含めていません。実際はこれより早く資金が足りなくなる場合があるため、入金の月数は訪問介護の運転資金と資金繰りで別に確かめます。
事業計画シミュレーターでは、基準ケースに対して保守ケースの減少率(%)を入力できます。採用の遅れによる人数不足は訪問介護の人員計画と採用シナリオで確かめます。倒産の原因として挙がる売上不振と人手不足との対応は訪問介護の倒産件数と原因(2025年・東京商工リサーチ)を開業計画の下振れ確認に使うにあります。
| 項目 | 標準 | 保守(件数20%減・単位数5%減) | 厳しい(件数40%減・単位数5%減) |
|---|---|---|---|
| 月間訪問件数 | 700件 | 560件 | 420件 |
| 1訪問あたり報酬額(1単位10円) | 4,000円(400単位) | 3,800円(380単位) | 3,800円(380単位) |
| 月間売上 | 2,800,000円 | 2,128,000円 | 1,596,000円 |
| 月間費用(人件費+固定費+変動費) | 2,400,000円 | 2,400,000円 | 2,400,000円 |
| 月の営業利益 | 400,000円 | −272,000円 | −804,000円 |
| 損益分岐の訪問件数 | 600件 | 632件 | 632件 |
| 損益分岐との差 | 100件上回る | 72件下回る | 212件下回る |
| 12か月続いた場合の営業利益の合計 | 4,800,000円 | −3,264,000円 | −9,648,000円 |
| 自己資金3,000,000円が持つ月数のおおよそ | 赤字なし | 約11か月 | 約3か月 |
借入返済を足した損益分岐(据置前後の比較)
開業資金を借り入れると、毎月の返済額が現金の支出として加わります。元金の返済は損益計算上の費用ではなく、費用になるのは利息だけで、シミュレーターの「損益分岐の訪問件数」は返済を含めていません。ここでは、返済額を月次固定費に足したと考えた場合の、現金ベースの損益分岐を本記事のモデルで確かめます。
元利均等返済の毎月の返済額は、借入額をP、月利をr(年利÷12)、返済回数をnとして、P×r÷(1−(1+r)の−n乗)です。据置期間は元金を返さない期間で、その間は利息だけを支払うものとして置きます。据置後は、残りの期間で元金をこの式により返します。
日本政策金融公庫のソーシャルビジネス支援資金(企業活力強化貸付)の公式ページでは、介護サービス事業等を営む方が対象に含まれ、返済期間は運転資金で10年以内(うち据置期間5年以内)、設備資金で20年以内(うち据置期間5年以内)と案内されています(2026-09-30確認)。利率は返済期間・担保の有無などで異なり、金融情勢で変動するため、下の表の年2.0%は計算のための架空の値で、実際の適用利率や融資の可否を示すものではありません。
借入額1,000万円、返済期間10年(うち据置5年)、年利2.0%(架空)とし、上の架空の数値例(月間費用2,400,000円、1訪問あたり報酬額4,000円)に足したのが下の表です。据置中の利息は月16,667円、据置後は残り5年(60回)の元利均等で月175,278円です。端数は切り上げて件数にしています。
返済額を足すと、損益分岐の件数は据置中で約5件、据置後で約44件増えます。返済が始まるのは据置後の月からなので、据置が終わる月に、その時点の訪問件数がこの件数を上回っているかを確かめます。実際の返済額は、借入契約の返済予定表で確認してください。
事業計画書全体の数字の食い違いは、訪問介護の事業計画書の自己点検表:稼働率・人件費率・採用・資金・数値の矛盾の6項目で確かめられます。
資金が月ごとにどう動くかは訪問介護の運転資金と資金繰り、法人形態ごとの資金の調達は訪問介護の開設主体・法人・資金調達で整理しています。
| 項目 | 返済なし | 据置中(利息のみ) | 据置後(元利均等) |
|---|---|---|---|
| 月間費用(人件費+固定費+変動費) | 2,400,000円 | 2,400,000円 | 2,400,000円 |
| 月の返済額(借入1,000万円・年利2.0%) | 0円 | 16,667円 | 175,278円 |
| 現金ベースの月間費用 | 2,400,000円 | 2,416,667円 | 2,575,278円 |
| 1訪問あたり報酬額 | 4,000円 | 4,000円 | 4,000円 |
| 損益分岐の訪問件数 | 600件 | 605件 | 644件 |
厚生労働省調査で見る収支の水準(令和6年度決算)
厚生労働省老健局老人保健課の「令和7年度介護事業経営概況調査結果」の第4表では、訪問介護の1事業所あたり月平均が、収入3,290千円、支出2,973千円、差引316千円(税引前収支差率9.6%)です。延べ訪問回数は月853.3回で、訪問1回当たりの収入が3,855円(補助金収入を除く)、支出が3,484円です。
この平均値だけで、本記事の式と同じ形の逆算(支出2,973千円÷訪問1回当たり収入3,855円)をすると約771件で、平均の延べ訪問回数853.3回より少なくなります。これは本記事での計算です。調査の支出には人件費以外の費用も含まれ、平均値に当たる事業所は実在しないため、自社の損益分岐の件数の目安にはなりません。
第73表(延べ訪問回数の階級別)では、税引前収支差率が階級ごとに2.8%〜13.9%とばらつき、月の延べ訪問回数が201〜400回の階級は差引が月37千円(2.8%)と小さくなっています。階級ごとの有効回答は26〜142件と少なく、規模が大きいほど収支差率が高くなる形ではありません。
| 延べ訪問回数(月)の階級 | 階級の平均延べ訪問回数 | 収入(千円/月) | 支出(千円/月) | 差引(千円/月) | 税引前収支差率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 200回以下 | 117.7回 | 608 | 542 | 66 | 10.9% |
| 201〜400回 | 303.5回 | 1,320 | 1,283 | 37 | 2.8% |
| 401〜600回 | 494.1回 | 1,981 | 1,843 | 138 | 7.0% |
| 601〜800回 | 691.4回 | 3,182 | 2,740 | 442 | 13.9% |
| 801〜1,000回 | 884.7回 | 3,410 | 3,153 | 257 | 7.5% |
| 1,001〜1,200回 | 1,099.4回 | 4,385 | 3,889 | 496 | 11.3% |
| 1,201〜1,400回 | 1,286.9回 | 5,001 | 4,763 | 238 | 4.8% |
| 1,401〜2,000回 | 1,650.5回 | 6,466 | 5,892 | 574 | 8.9% |
| 2,001回以上 | 3,510.7回 | 11,972 | 10,489 | 1,483 | 12.4% |
確認の手順
結果欄の損益分岐の訪問件数と、基準月の月間訪問件数を並べます。次に、訪問件数に応じて増える費用が月額に混ざっていないか、入力を確認します。最後に、12か月・3シナリオの表で、保守ケースでも採算が取れるかを確認します。
損益分岐の件数を超えても、報酬の入金は遅れて入ります。初回入金までの資金は、売上の構造と資金繰りの記事で別に確認します。
規模別の収支を並べて確認する
損益分岐の訪問件数の式を確かめたあとは、調査で月約300回・約700回・約1,650回の事業所の収支がどう違うかを並べると、自社の計画の位置を見やすくなります。訪問介護の事業所規模別の収支比較(月約300回・700回・1,650回、令和6年度決算)で確認できます。
実行チェックリスト
次の順に確認します。未確認の項目は推測で埋めず、担当と確認期限を残してください。
- シミュレーターの結果欄から損益分岐の訪問件数を書き出し、基準月の月間訪問件数と並べる
- 式に入る月間人件費・月次固定費・月次変動費の入力額と、1訪問あたり単位数・1単位単価を記録する
- 移動費など訪問件数に応じて増える費用を月額で入力していないか確認し、増える分を見込んだ場合の件数も出す
- 調査の階級別の収支水準と並べ、採用や訪問枠の増減を検討する月の判断材料として日付つきで残す
事業計画ツールで確かめる
記事で整理した前提を事業計画ツールへ入力し、基準ケースだけでなく保守ケースの結果も確認します。
この例で収支を試算する →(月約700回の事業所規模のモデル例を入力した状態で開きます。厚生労働省の調査の月平均から換算したモデル値で、公定値ではありません)
一次資料
個別地域の運用は指定権者で確認してください。
- 厚生労働省老健局老人保健課「令和7年度介護事業経営概況調査結果(令和7年度介護事業実態調査)」(訪問介護の収支差率(差引③)の表)(確認日 2026-10-22)
- 厚生労働省老健局老人保健課「令和7年度介護事業経営概況調査結果の概要」(「各介護サービスの収支差率及び給与費割合(過去の調査結果との比較)」の表(訪問介護の行))(確認日 2026-10-25)
- 日本政策金融公庫「ソーシャルビジネス支援資金(企業活力強化貸付)」(確認日 2026-09-30)